機体の保守点検に加え、現場でサポートも
整備士
ヘリの機体の保守点検を行い、安全に運航できるよう努める整備士。ドクターヘリの場合、ヘリに搭乗してパイロットの補佐を務めたり、現場ではフライトドクターやフライトナースのサポート役として、ストレッチャーで患者をヘリまで運んだり、搭乗者名簿を作ったりといった周辺業務も行います。
最近ではドクターヘリの整備士を目指す人も増えてきているとのこと。その魅力はどんなところにあるのでしょうか。
VOL.5
現場でも必要な仕事を
冷静にこなすことが大切
中日本航空株式会社
整備士
吉田博之さん
2020.4.1
整備士とはどんな仕事をする人?
駐機しているドクターヘリの保守点検を行い、日々の安全な運航を支えている整備士。ヘリの整備経験は長く、30年以上になるベテランの吉田博之さんは、10年ほど前からドクターヘリの整備業務に携わっています。
「最近の機体はコンピュータ化が進んでいて、接続や機器の不具合をアラートで知らせてくれます。とても便利で助かりますが、その原因や対処法までは教えてくれません。そのアラートからどんな現象が起こっていて、どこに原因があるのかを突き止め、それを直して機体を飛べるように整備するのが、我々の仕事です」
機器の不具合は経年劣化による摩耗に限らず、小さいものまで入れると頻繁に起こるといいます。昨日まで問題なく動いていた機器類が、翌日に動作しなくなることも。だからこそ、日々の点検で問題をいち早く見つけ対処する整備士の存在は大きいといえます。
「朝は7時半から30~40分かけて飛行前点検を行い、安全に運航できる状態であることをパイロットに報告します。夕方も翌日に備え確認します。飛行後も点検を行いますが、いつ入るかわからない出動要請に支障がないよう気をつけています」
ドクターヘリならではの役割は?
ドクターヘリの整備士は一般的なヘリの整備士と異なり、クルーの一員としてヘリに乗り込み、機長やフライトドクター、フライトナースのサポートも行います。
「飛行中はパイロットの補佐として消防本部指令室やCS(Communication Specialist)(※1)から来る情報をもとにランデブーポイント(※2)を確認したり、着陸をサポートしたりします。また現場に到着してからはヘリから必要な物品を救急車に運んだり、搭乗者名簿を作ったり、患者をストレッチャーに乗せてヘリまで運んだり。周辺業務も整備士の大切な役割です」
クルーとしての仕事は本来の整備業務とは異なりますが、「患者さんを助けられるとうれしいし、やりがいがある」と吉田さんは言います。
※1 CS(Communication Specialist):ドクターヘリの出動要請が入った際にクルーに出動指示を出し、そのあとは消防本部指令室とやりとりをしてランデブーポイントを調整。飛行中は運航支援業務を行いながら、消防や医療機関との調整を図るなど、さまざまな業務を担う。
※2 ランデブーポイント:救急車とドクターヘリが合流する場所(地点)。各道府県の運航調整委員会が事前に選定した「場外離着陸場」のこと。校庭や駐車場、公園などが選定されているが、2017年3月末時点のHEM-Net調査では一基地病院当たり625か所となっている。
ドクターヘリの整備士になるには、まず航空整備士という国家資格を取る必要があります。航空整備士は扱う機体のサイズによって1等航空整備士(大型)と2等航空整備士(小型~中型)があり、さらに1等航空整備士はヘリの機種ごとに資格を取ります。
吉田さんは高校卒業後、ヘリの整備士の資格が取れる専門学校に入学。同級生は工業高校の出身が多く、「ちょっと興味があった」という理由で普通高校から進んだ吉田さんは苦労したといいます。
「まず工具の名前がすべて専門的なんです。例えば、普通に”スパナ”と呼んでいる工具を、同級生は”アジャスタブルレンチ”とか、”オープンエンドレンチ”とか言っているです(笑)。専門学校に通っているときは、授業の内容をとにかく詰め込むのに必死で、面白いとかと思う余裕がなかったですね」
卒業とともに小型ヘリの整備士の資格を得た吉田さん。中日本航空株式会社に入社後、同社が所有する機体の一等航空整備士を取得しました。
最近は、テレビドラマの影響からか、ドクターヘリの整備士を目指す人が増えているようです。クルーの一員になるには、整備士を派遣する運航会社に入社した後、経験を積んで社内の規程を満たさなければなりません。中日本航空株式会社の場合は、「整備士として5年以上の経験がある」「同社が所有するドクターヘリの機体を整備できる資格がある」「日本航空医療学会のドクターヘリ講習会を受講している」などの条件があり、さらに会社が用意したトレーニングを終えることも求められます。
「しかも、ドクターヘリの担当になっても、専属というわけではありません。多くの整備士はシフトでドクターヘリを担当しつつ、別の整備業務も行います。たとえば、エンジンや無線の状態をチェックするテストフライトや、自動車の車検に当たる耐空検査など、その内容は多様です。そうした経験はドクターヘリにかかわるときにも役立つので、どんな仕事にも前向きに取り組んでほしいですね」
整備士としての経験は豊富な吉田さんですが、傷病者を救う手伝いをするという仕事に対して、「やりがいがある」と答えた一方で、「感情を入れすぎない。淡々と仕事をする」とも話しています。
「もちろん、調整がうまくいってスムーズに着陸でき、フライトドクターやフライトナースがすぐに患者さんのところに駆けつけられるとよかったと思いますし、患者さんが助かればうれしいです。ですが、患者さんを助けることだけに気持ちが入り込みすぎると、その場の状況の冷静な判断ができなくなり、ときに大きな問題につながりかねません。クルーの一員としてお互いにカバーし合うけれど、それぞれが必要とされる仕事をこなす。それがドクターヘリでは大切だと思っています」