◇劇的救助へ、多くの支え
◆事故でなくハチ
田子町で今年9月、70歳代の女性が軽トラックの運転席で倒れた。車は道路脇に乗り上げ、一見、交通事故のようだった。しかし、駆けつけた三戸消防署田子分署の救急隊は、ろれつの回らない女性の口から「刺された」「ハチ」という言葉を聞き取った。ハチのショック症状なら、すぐに医師の治療を始めないと命にかかわる。ドクターヘリを要請した。
ヘリは日没前に現場を飛び立たないといけない。八戸市立市民病院は迷った末に出動を決め、要請から16分後の午後5時24分、ヘリで医師と看護師を救急隊との合流場所に降ろした。女性は医師の処置を受けながら救急車で搬送され、数日後に退院した。
◆まずは情報共有
「ヘリが来てくれると知った瞬間、『やった! これで助かる』と思った」と救急隊員は振り返る。八戸市立市民病院救命救急センターの今明秀所長は「ぎりぎりの時間帯。素早い判断と要請があったから患者が助かった」とたたえた。
今所長によると、予測救命率が50%以下の患者が助かることを「劇的救命」と呼ぶ。そのために「速く救急のスイッチをオンにしないといけない。一呼吸置くと劇的救命は起こらない」と説明する。
要請回数が最も多い八戸広域消防本部は「最初はうまく連携できるか不安だった」と明かす。しかし8カ月を経た今、「その時を失するか否か。情報は我々しか持っていない。まずは情報を共有し、出動の判断は(医師やパイロットに)任せる」意識で動いている。
「ヘリが飛ぶのは簡単。患者がいて天候が許せばすぐに飛べる」と今所長。その背景には、現場の救急隊やヘリの離着陸地点に駆けつけて警戒にあたる消防のポンプ隊、これまで「100%」(今所長)搬送要請を受け入れている県内の病院などの協力がある。
今月10日、市民病院で開かれた「県ドクターヘリ150回出動無事故報告会」で、三浦一章院長は「消防や(ヘリ運航会社の)中日本航空など、多くの人がヘリを支えてくれている。このネットワークで一人でも多くを救命したい」と話した。地域の枠を超え、医療機関や消防署などがつながり、ドクターヘリを運航している。
(2009年12月15日 毎日新聞)