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ヘリコプター救急の進展に向けて【2005.3.25HEM-Netシンポジウム】
2005.10.01

序章 「救命力」の向上をめざして
 人の生死を分ける緊急事態に対処する救急体制は、わが国の場合、世界の先進国に比して著しく遅れている。それは救急車を補完し、救急速度をあげることのできるヘリコプター救急のシステムに欠けているからである。

ヘリコプターの活用により、救命率を一挙に引き上げることができることは、欧米各国の事例で実証されているところであり、わが国でも、数年前に始まったドクターヘリのわずかな実績を見るだけで、明らかになっている。

ヘリコプターの運航コストも、その救命効果を考えれば、決して高くはない。

救急ヘリコプターの年間運航費用は2億円程度である。50機を全県配備して運航しても、その経費は、100億円。国民一人当たり、約80円の負担である。

この程度の負担で、多くの急病人や交通事故の被害者が命を落とさずにすむのであれば、ヘリコプター救急システムの構築を急ぐべきではないのだろうか。

今の日本には、「救急ヘリがあれば助かった命」が日々失われている可能性がある。

救急医療が時間との闘いである如く、ヘリコプターの活用による救急体制の再構築もまた時間との闘いである。

 

 

第1章 世界のヘリコプター救急
1 アメリカ

アメリカでは、ベトナム戦争の経験からヘリコプター救急が急速に普及し、現在は、病院を拠点にして、およそ450機が飛んでいる。その費用は、基本的には医療保険でまかなわれており、国や自治体の補助はない。

また、高度のメディカル・コントロールが確立していて、現場における救急治療は、医師の代わりにフライトナースやパラメディックなどの専門職が行っている。

2 ドイツ

ドイツでは、自動車連盟(ADAC)によるヘリコプター救急が、交通事故死の劇的な削減効果を発揮したことで有名である。現在78か所の拠点に配備された救急ヘリコプターが、事案覚知から15分以内に初期治療を開始するという「15分ルール」の下に縦横に活躍し、年間1機当たり約1,000回の運航実績を誇る。ADACの他、非営利法人のドイツ・エアレスキュー(DRF)、国防軍、内務省防災局など多様な運航主体があるのが特徴で、その運航費用は、医療保険でまかなわれる。

3 スイス

スイスのヘリコプター救急を担うのは、REGAと呼ばれる民間の航空救助隊である。

全国13か所の拠点に配備されたヘリコプターが、24時間、医師とともに待機し、15分以内に現場に到着できる体制ができている。REGAの運営経費は、すべて、医療保険と寄付によって賄われ、公的な補助はない。寄付者はパトロンと呼ばれ、年間30スイスフラン(約2,700円)の寄付をしておくと、ヘリ救急サービスを受けても、追加的な費用を請求されることはない。スイス人口の23%に当たる約170万人がパトロンになっている。

4 フランス

フランスの救急業務は、国の業務とされ、SAMU(救急医療庁)が統括する。その運営経費は、すべて国費支弁である。

全国約100の病院にSAMUの拠点が置かれ、救急専門医が責任者となって、各般の救急業務を行う。ヘリコプター救急もその一環として行われ、およそ30機のヘリが拠点病院に配備されている。

5 イギリス

イギリスのヘリコプター救急は、公費の援助はなく、民間の自助努力によって運営されている。他の欧米先進国に比べ立ち遅れ気味だが、それでも日本よりは進んでいて、現在全国に約20か所の拠点がある。

特にロンドンのヘリコプター救急は進んでいて、民間企業の寄付によって就航したMD900エクスプローラーが、トラファルガー広場でもピカデリーサーカスでも、主ローターの2倍の広さがあれば、どこでも着陸し、患者のすぐそばに医師を連れて行く。年間1,000回以上出動し、すぐれた救急実績を挙げている。

 

 

第2章 日本の現状
1 5種類の救急ヘリコプター

わが国では、ヘリコプターが救急活動に使用されている点だけに着目すると、運航主体別に、消防・防災ヘリ、ドクターヘリ、自衛隊ヘリ、警察ヘリ、海上保安庁ヘリが稼動している。

このうち、自衛隊ヘリは、沖縄、長崎などの離島において、実質上日常的に運航されているが、本来、都道府県知事等の要請に基づく「災害派遣」を出動原則とするものであるから、今後とも、人命尊重の立場から、可能な限り要請に応えていくことが期待されるものの、制度的に救急ヘリコプターとして位置づけられるものではない。

また、警察ヘリも全国に80機が配備され、日常的に飛行しているので、要請があれば救急患者を搬送することもあるが、救急業務を直接の任務としていないので、飛行実績は限られている。

海上保安庁ヘリも、(社)日本水難救援会からの依頼を受けて、洋上の船舶で発生した傷病者に対して「洋上救急」を実施する他、沖縄・石垣島など離島において、急患輸送を行っているが、基本的に海上を守備範囲とするものである。

このように見てくると、「陸上における日常的な救急」を担当するのは、結局、これから述べる消防・防災ヘリとドクターヘリの2種類ということになる。

2 消防・防災ヘリ

(1)「救急業務」は、市町村の責任において行われるが、平成10年以降、救急隊の構成要素に、ヘリコプターが、救急車と並んで正式に加えられた。

また、防災ヘリは、都道府県によって保有され、災害対策基本法に基づく防災業務を行うものであるが、市町村の行う救急業務を支援して活動している。

現在、全国で、消防ヘリは27機、防災ヘリは42機、あわせて69機が保有されている。

(2)消防・防災ヘリの救急出動実績は、最近、増加する傾向にあり、平成15年中には、2,087件の救急出動が記録され、全出動の45%を占めるに至っている。

しかしながら、この実績は、1機当たり年間平均30件の出動に過ぎず、まだ極めて微々たるものであり、欧米の先進国とは比べものにならない。

(3)また、消防・防災ヘリの場合、必ずしも医師を同乗させる体制になっておらず、平成15年中の実績を見ると、救急出動2,087件中医師同乗は1,104件(53%)となっている。

(4)さらに、消防・防災ヘリは、多目的ヘリであるから、常に救急のために待機しているという体制は取り難く、また、出動手続きも煩瑣で、出動までに時間がかかるという難点がある。

これを克服する仕組みと
して、兵庫県は、自己の保有する防災ヘリ1機と神戸市の保有する消防ヘリ2機の計3機を総合運用し、医師をピックアップする体制を確立して、平成16年度から救急専用へリの運航を開始している。ほかに広島県、岐阜県でも、常時救急ヘリ運用のできる体制を組むための工夫を凝らしているが、まだ、全国的な動きにはなっていない。

3 ドクターヘリ

(1)医師がヘリコプターに搭乗し、現場に直行して治療を施すことにより大幅な救命率の向上が見られることは、欧米の救急先進国においては、つとに立証済みのことであった。わが国でも1980年頃から、特にドイツ方式のヘリコプター救急に関する関心が高まり、数々の実験を経て、1999年10月から川崎医大と東海大学の救命救急センターで「ドクターヘリ試行事業」が開始された。

(2)その結果、わが国においてもドクターヘリが必要という結論に達し、2001年4月から川崎医大(岡山県)、同年10月から聖隷三方原病院(静岡県)と日本医大千葉北総病院(千葉県)において、それぞれ本格的なドクターヘリ運航が開始された。

現在、ドクターヘリを運航する病院は7県8病院となっているが、それらの病院では出動実績も年々向上し、平成15年度には7病院(平成16年4月運航開始の静岡・伊豆長岡順天堂病院を除く)をあわせて、年間2,888件、1病院平均412件の出動を行い、次章で見るように、大きな救命効果を挙げている。

(3)ドクターヘリは、わが国で初めての本格的な救急専用ヘリであり、その全国的な普及が期待されたが、本格運航開始後4年を経て、7県に8機の配備というのは、いかにも遅々とした普及の歩みと言わざるを得ず、厚生労働省の掲げた「5年間で30機」という当初目標は到底実現されそうにない。

このように普及の進まない背景には、運航費用負担の不安定、ドクターヘリに関する医師・救急関係者・国民一般の理解不足、路上着陸(特に高速道路上)の制限などの問題がある(詳細は第4章以下)。

 

 

第3章 ドクターヘリの救命効果
 ドクターヘリの救命効果と予後の改善効果に関する最も総合的な調査として、平成16年4月に公表された「平成15年度厚生労働科学研究」(日本医大教授・益子邦洋ほか)がある。これは、平成15年中に、ドクターヘリ運航7病院がヘリコプターで救護した重症患者1,702人について、転帰調査を行ったものであり、その結果は次表のとおりである。

 

 

死  亡
 

後遺障害
 

軽  快
 

合  計
ヘリ搬送による実績  

542
 

277
 

883
 

1,702
救急車搬送の場合の推定  

821
 

408
 

473
 

――
増  減  

-279
 

-131
 

+410
 

――
成  果  

34%減
 

32%減
 

87%増
 

――

 

上表に示されるように、ヘリコプターで搬送しても死亡した患者は542人であったが、これを転帰調査すると、救急車で搬送した場合に死亡すると推定される患者は821人になる。したがって、ドクターヘリによって死を避けられた患者は279人となり、推定死者821人に対して34%の減少という結果が得られた。

同様に後遺障害者は、ドクターヘリにより131人、32%減少し、軽快患者は410人、87%増加した。

 

第4章 救急ヘリ運用方式のあり方
1 本格的救急ヘリコプター・システム確立の必要性

われわれが、わが国に確立しなければならないと主張するのは、欧米並みの本格的な救急ヘリコプター・システムである。

本格的な救急ヘリコプターのシステムが確立していると言えるためには、救急装備を整えたヘリコプターが、一定の区域を、少なくとも昼間帯はカバーして、常に医師を同乗させることができる形で待機しているという仕組みが出来上がっていなければならない。

(このような要件を満たす本格的な救急ヘリコプターのことを、以下、カギ括弧をつけて「救急ヘリ」と称することとする。)

2 ドクターヘリと消防・防災へリ

(1)ドクターヘリは「救急ヘリ」の要件を満たすものである。したがって、ドクターヘリが全国に普及すれば、なんら問題はない。

しかし、ドクターヘリの配備は、その運航費用を負担しきれないという事情がある一方、既に配備されている消防・防災へリを活用すればいいではないかという考えがあって、なかなか進まないのが実情である。

(2)われわれは、基本的には、「救急ヘリ」の運用方式は、単一ないし統合されたものである必要はないと考える。消防・防災へリの救急運用であっても、兵庫方式のような方式を取ることにより、「救急ヘリ」の要件を満たす運用ができるのであれば、それで構わない。

(3)ドクターヘリと消防・防災へリは、二者択一の関係にあるものではない。両者が連携して相乗効果を発揮し、その地域の救急需要を満たすために最適の救急体制を築いていく配慮が必要である。

3 救急車と「救急ヘリ」

(1)日本には、5,600台の救急車が全国に配備され、年間483万件を超える出動実績を誇っている。これからも、救急活動の主力は救急車であることに変わりはない。

しかし、平成16年版消防白書によれば、事案覚知から病院収容までに30分以上を要する搬送事例は、全体の38%を超えると報告されており、救急車よりも足の速いヘリコプターを活用したほうが効果的なケースが数多くあることが伺われる。

(2)特に最近は、医療技術の高度化と専門化に伴い、特定の疾患については、「最寄り」の医療機関に患者を搬送すればそれで済むというわけにはいかなくなり、多少遠くても
「最適」の医療機関に搬送することが必要になってきている。

救急車を補完し、それと協働する「救急ヘリ」の整備を急がなければならない時代になってきているのである。

4 「救急ヘリ」の必要数

「救急ヘリ」は、ドイツやスイスのように担当区域のどこにでも15分以内に駆けつけることが出来るだけの数を整備するのが理想だが、とりあえずは、少なくとも各都道府県に1機の配備の実現を目指すべきである。

5 『都道府県「救急ヘリ」配備検討委員会』の設置

「救急ヘリ」の運用システムの構築をどのように行うか――ドクターヘリの導入によって行うのか、既存の消防・防災へリ等の救急運用で行うのか、あるいは、その両者の組み合わせで行うのかなど――については、都道府県が「配備検討委員会」を設けて検討し、当該都道府県の実情を踏まえて、決定すべきことである。

ただし、運航費用の負担問題は、国のレベルで統一的に検討し、都道府県の財政力の差が「救急へリ」の整備を左右することのないよう配意する必要がある。

 

第5章 ヘリコプター運航費用の負担問題
1 考え方の基本

(1)現在、ドクターヘリは、消防・防災へリと同様、「公的サービス」として、国および導入県の公的資金を使用して運航されている。しかし、厳しい地方財政事情の下では、年間1億円近いへリ運航費用を負担しようという自治体が新たに出てこないため、ドクターヘリの普及が頓挫している実情にある。

(2)今後、ドクターヘリであれ、消防・防災へリの救急運用であれ、「救急ヘリ」の高い救命効果を評価して、現行制度のまま、公費をもって、その普及を図っていくのは、住民の生命の保護を重視する立派な政策判断であると思われるが、発想を転換して、別の費用負担の枠組みを検討することも必要になってきている。

(3)その場合、第一に、保険的な発想に基づき、スイスのREGAなどを参考にしながら、「救急ヘリ」の運航費用を広く薄く負担する新たな仕組みを作り、いざ危急に当面した人が「救急ヘリ」を利用した場合の個人負担を最小化することを検討すべきである。

(4)さらに、第二に、「救急ヘリ」の運航費用の負担問題は、救急車のそれとは切り離して考えることである。「救急ヘリ」は、医師が救急現場に駆けつけ、迅速に医療行為を開始するところに、最大の特色とメリットがあり、その点において、救急車と異なる。

2 「救急ヘリ」の経済効果

「救急ヘリ」の費用負担を公費以外で考える場合、「救急ヘリ」の経済効果を、ある程度、客観的なデータとして示す必要がある。

HEM‐Netでは、「救急ヘリ」が医療費の削減、介護費用の削減、国民所得の逸失回避などの面で、どのような経済効果を生むかに関する調査・研究を進めることとしている。

3 費用負担のあり方

(1)「救急ヘリ」の運航費用の全部ないし一部(特に、駐機場など基盤整備費を除いた事業費部分)に医療保険を適用することを検討する必要がある。

へリ運航費用を医療保険で賄っている例は、ドイツ、アメリカ、スイスなどの諸国に見られるところであり、日本においても、理論的に出来ないとか、制度的に無理ということはない。

既に見たように、「救急ヘリ」は医師の現場急行により迅速な医療行為の開始を可能にする医療行為密接関連手段であるから、これを「医療サービス」の一環として捉え、保険給付の対象にすることは、十分に合理性を持ち得るものである。

へリ運航費用を保険給付の対象にした場合の負担増はどの程度のものになるか。仮にドクターヘリ50機を全県配備した場合、その経費は100億円であるが、この額は国民医療費30兆円の0.03%に過ぎない。

(2)へリ運航費用をどのような形で医療保険制度のなかに組み込むかは、今後の課題であるが、既に認められている「移送費」とは別に「特別移送費」の概念を設けて、それを「救急ヘリ」搬送に限り適用してもよいし、「高額療養費」ないし「特定療養費」のなかに組み込むことも考えられる。

(3)日常的に救急搬送されている患者のなかには、多くの交通事故負傷者や労災事故負傷者が含まれているから、へリ搬送費用への自賠責保険や労災保険の適用は十分に検討に値する。

例えば、自賠責保険によって支払われる保険金は、平成15年度で約9,230億円であるから、その約1%で、ドクターヘリ全県配備のほぼ全額を賄うことができる。

したがって、ドクターヘリの導入により自賠責保険金の支払いを1%以上削減することができるというデータが示されれば、ドクターヘリは、自賠責保険との関係において「ペイする」ということになる。

(4)各種の保険制度の適用により、「救急ヘリ」の費用分担が多様に成立した場合には、国、地方公共団体、各保険機関の出資により、『「救急へリ」運航費用管理機構』のような機関を設立し、へリ運航費用をへリ運用者に一括して支払うこととするのが、合理的である。

 

第6章 メディカル・コントロール体制の確立
1 医師不足とパラメディックの養成

(1)メディカル・コントロール(MC)とは、医師法に基づき医師にだけ許されてきた医療行為を、救急救命士、看護師など医師以外のスタッフが行う際、医師が、直接的あるいは間接的に、教育、指導、助言などを与える仕組みのことをいう。

アメリカでは、このMC体制が、充実した形で確立しており、救急ヘリコプターには、もっぱらフライトナースやパラメディックが乗り込んで、医師と比べても遜色のない救急医療を施している。

(2)わが国でも「救急ヘリ」の普及に伴い、へリ同乗医師の確保が問題になる。同乗医師が不足してくる場合に備えて、MC体制を確立し、救急医療を施す資格のあるパラメディックの養成と充実に力を注ぐ必要がある。

2 わが国の現状と課題

(1)MC体制の構築は、まだ不十分で、特に、救急活動の事後検証を行う体制の整備が遅れている。

(2)これまでは、心肺停止患者に対する救急救命士の処置拡大を目的としてMC体制の整備を図ってきた経緯があるため、除細動、気管挿管などが最優先課題とされてきた。しかし今後は、広くプレホスピタルケアの必要な患者全般について、輸液や胸腔穿刺などの処置拡大を図っていく必要がある。

 

 

第7章 安全運航の確保と運航環境の整備
1 運航の制約の問題

ドクターヘリについては、既に大幅な規制緩和が実現しているが、今後は、飛行場外の離着陸基準、飛行計画の通報、病院間搬送などに関し規制の見直しが急務である。

特に病院間搬送については、これまで緊急性が低いとして、救急搬送と認められていなかった。しかし、最近は、より高度の医療措置を必要とする患者を緊急に他の病院に搬送するケースも増えているため、これを現場からの搬送同様、救急搬送として臨時離着陸の許可を要する対象から外すべきである。

2 安全運航の確保

ドクターヘリはもとより防災へリの運航の多くは、民間航空会社に委託して行われているが、飛行経験、該当機種などに関する委託基準を常に見直し、安全運航を確保していく必要がある。

3 高速道路上への着陸問題

(1)ドクターヘリの高速道路上への着陸については、2000年6月の警察庁、消防庁、厚生省医政局、国土交通省道路局および道路公団の「中間とりまとめ」の定める基準に基づいて実施される原則になっているが、二次災害を懸念するあまり、非現実的な条件が付されており、現在に至るも、この「とりまとめ」に基づく救急業務は一度も実行されたことがない。

(2)二次災害を避けなければならないのは当然であるが、安全な着陸が可能である地点をあらかじめ調査してマッピングしておき、当該地点については、事故発生時、積極的にへリの着陸を誘導するなど、柔軟な対処が望まれる。

 

 

第8章 「救急ヘリ」に関する認識レベルの向上
1 国民的コンセンサスの醸成

日本国民の「救急ヘリ」の重要性と必要性に関する認識は、驚くほど低い。

また、日本が、先進国と呼ばれる国のなかで、ほとんど唯一、「救急ヘリ」の仕組みが普及していない国であるという事実には、まったくと言っていいほど気付いていない。

「救急ヘリ」の重要性と必要性について、国民的コンセンサスが醸成されるよう広報・啓発運動を展開する必要がある。

2 救急医等の意識改革

救急医や消防・防災関係者のなかにも、まだ「救急活動は救急車で」とか「医師は、病院で患者を待つもの」という考えに止まっていて、「救急ヘリ」の重要性と必要性をよく認識していないものがいると言われる。そうした人々に対する広報・啓発活動も必要である。

3 大震災発生時のへリ活用

首都圏を襲う大地震の発生の危険が現実のものとなるなかで、大震災発生時の大規模救急医療体制の整備が叫ばれているが、その場合、ヘリコプターの活用は最大のポイントになる。しかし、大震災時に順調にヘリコプターが活用されるためには、全国の医師、救急業務関係者の間に、ヘリコプターを活用しようという着想が直ちに生まれ、そのためのノウハウが確立していないと、どうにもならない。そうした着想やノウハウは、日常、「救急ヘリ」の運航に慣熟していて初めてできてくるものである。常日頃やっていないことが、非常時にできるわけがない。「救急ヘリ」の重要性と必要性は、ここにも存在するのである。

4 『「救急ヘリ」整備緊急措置法』の制定

「救急ヘリ」の整備を総合的かつ緊急に推進するための基本的な事項を定める『「救急ヘリ」整備緊急措置法』を制定し、「救急ヘリ」の重要性と必要性に関する国民世論を喚起しながら、「救急ヘリ」の全国的な普及を図っていく必要がある。