認定NPO法人
救急ヘリ病院ネットワーク
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救急ヘリネットワークを構築せよ-HEM-Net國松孝次理事長に聞く-
2004.06.01

本誌 救命救急ヘリコプターのネットワークが最も進んでいるのはドイツだと聞いていますが。

國松 ドイツでは、アウトバーンでの自動車事故による死亡者が20年間で3分の1に減少しました。フランスでは中核病院を救急ヘリの拠点に設定した公的機関があり、スイスでは民間機関のREGAが運営しています。またアメリカでは、およそ450ヶ所の救命救急ヘリコプター基地があります。

本誌 日本ではどうなっているんですか?

國松 残念なことに、救命救急ヘリコプターシステムがないのは先進国では日本だけです。ドイツでは62,000件の出動実績があり、国際航空救助隊、国防軍、日本のJAFにあたるADACなどが飛んでいる。ドイツやスイスでは1機が年間に1,000回ぐらいは飛んでいるでしょう。日本のドクターヘリは年間300回から400回。消防防災ヘリコプターにいたっては年間20~30回というところです。

本誌 なぜ、日本にないのでしょうか?

國松 一つは仕組みの問題。もう一つは意識の問題でしょう。仕組みがないから意識も高まらないし、意識がないから仕組みもできない。HEM-NETとしては両方をちゃんとやっていかなくてはならないでしょう。

まず、総合的な仕組みをつくってもらう。我々は志をもった者たちが集まっているNPO法人で、運航主体になれるような直接の力はないわけですから、ヘリコプター1機とて持てるわけがありません。誰かに持ってもらうわけですが、日本では厚生労働省がドクターヘリについては考えることになった。これは仕組みとしてはドイツ型で、救命救急ヘリコプターを病院に置いて、その病院のドクターが乗って現場に行き、初期の医療行為を施して帰ってくる。救命救急の専従システムです。

しかしヘリコプターの運航費は国が半分、地方公共団体が半分の百パーセント公費でまかなわれています。ですから地方公共団体に引き受けてくれるところがなければ成立しません。基地となる病院は受託するという立場ですから、予算がこないことには、やりたくても運営費を持つわけにいかない。国と地方公共団体が合意した上で「うちの県ではヘリコプターを1機ここの病院にあずけましょう」と言ってくれなければ成り立たないわけで、現在そういったところは日本全国でたった7県しかないわけです。

本誌 ドクターヘリは7機ですか。少ないですね。

國松 千葉、神奈川、静岡、愛知、和歌山、岡山、福岡――これら7県の知事さんは救命救急について熱心だということです。これがどんどん広がっていってくれればいいのですが、7県でとどまっている。平成15年度は「さあ、やりませんか」という呼びかけにも手を挙げた地方自治体は、なんとゼロ。このネットワークづくりが遅々として進まない。地方自治体は「半分の予算を持たなきやいけないからお金がない」と言うけれど、地方自治体がもつランニングコストは年間せいぜい1億円でいいわけです。

それから、医療サイドでは飛んでくれるドクターがいないといけないし、ヘリコプターを置いてくれる病院がなければいけない。それもなかなかない。

では、救急専用ヘリコプターを使ってやることがお金がかかるというならば、各地方自治体や大きな市は防災や消防のヘリコプターを持っている。全国に69機の消防防災ヘリコプターがあるわけで、これを活用できないかという話が当然出てきます。ところが、これが救急救命に使えるかというとそうはならない。消防防災ヘリコプターだって、消防庁とか防災部とかが持っているわけですから、どこそこに救急患者がいるからという理由でいつ飛んで行っても、法律的にも人道的にも全くかまわない。これはれっきとした仕事です。

ところが、防災消防ヘリコプターを運用している人たちは、大きな災害が起こった時に出すとか、「消火作業はするけれど、救命救急はやりません、救命救急は救急車がやっているじゃないですか」という意識なんです。

厚生労働省のヘリコプターは1機年間何百回かは飛びますが、消防防災ヘリコプターは救急のためには1機年間30回も飛んでいないと思いますよ。その他にも警察、自衛隊、海上保安庁のヘリコプターがありますが、これも救命救急にはほとんど飛んでいないのが現状でしょう。

現在日本には約800機の民間ヘリコプターがありますが、救命救急に飛んでいるのは、厚生労働省のドクターヘリ7機があるだけ。スイスやドイツでは官民一体となって、合い言葉のように言われる「現場に15分以内に到着できる」仕組みをつくっているわけですが、それと比べたら日本なんて無いに等しいわけです。

意識の問題から言うと、ヘリコプターを救命救急活動に使うという発想がありません。「救命救急活動というものは救急車でやればいい」というところで、日本人の思考は停止しているようです。これは、世界の常識から全く外れている。ちょっと考えればわかるでしょう。救急車で行けないけれど、ヘリコプターでいける場所はいくらでもある。「離島や山間部は飛んでいる」という問題じゃないんです。

脳疾患や心臓疾患はもちろん、都市部の高速道路上の事故でも外国では当たり前に飛んでいますよ。救急車と連係して、最適の治療ができる病院へ最も速く運ぶ。その時、足が速くて足の広い広範囲をカバーできるヘリコプターが使えるならば、じゃんじゃん使うという発想じゃないと、救える命も救えないと思うのです。救急車は良くやっていると思いますが、救急車では救えないものがあることも決まりきった話でしょう。

今日本では、「救急車で運びましたが問に合いませんでした。残念でしたが、人事は尽くしました。」ということになっていますが、これは人事を尽くしてないんですね。政治家も生活者も、これでよく平気だと思います。

本誌 今後の展望をお聞かせ下さい。

國松 我々は今、救命救急ヘリと消防防災ヘリが全国をカバーして、どこへでも飛んで行けるという仕組みをつくりたいと考えています。兵庫県の例を挙げますと、県の防災ヘリコプター1機と神戸市の消防ヘリコプターが2機あります。この3機をうまく運用して全県をカバーする仕組みをつくり、この4月から稼動するようです。これは「兵庫方式」として一つのモデルケースになるのではないかと思っています。このやり方と従来のドクターヘリ方式、これらが相まって日本全国をカバーできれば良いのではないかと思っています。

そういうさまざまなシステムが出来てきた時に、それを横で繋ぐコミュケーションが必要となってきます。

それから、救命救急ヘリコプターに乗る操縦士など、乗員の安全教育について統一的なものが必要となるでしょう。また病院のネットワーク、ドクターや救急救命士(パラメディック)の供給システムをどうするか。仕組みを一つずつ解決して、意識の問題を変えながら、「こんな救命救急ヘリコプターシステムか日本にはありますよ」と、世界に向かって言える状況に早くなりたいのです。

毎日死ななくてもいい人たちが死んでいるんですよ。日本は命を粗末にしているとしか思えない。だから、とにかく、やってみようということです。

(「FASE REPO」誌2004年6月号より)