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今ある医療資源を有効活用せよ  -千葉北総病院益子邦洋救命救急センター長に聞く-
2004.06.01

本誌 ドクターヘリはドイツがお手本とお聞きしましたが。

益子 ドイツに追い付き追い越せですよ。ここでは、平成13年10月から救命救急ヘリコプターを導入しました。契機は阪神淡路大震災です。あの時、日本全国で63機の消防防災ヘリコプターがあったにもかかわらず、ヘリコプターで運ばれた患者さんは発生から3日間でたった17人しかいなかった。これが日本の現実だったわけです。

 それまでは、消防防災ヘリコプターが救急医療に使われるべきだという総務庁の報告書があったので、厚生労働省としては救命救急ヘリには手を付けなかったのです。しかし実際は、普段から日常の救急医療に使っていなければ、震災のような非常事態にも使えない。厚生労働省も本腰を入れて何とかしなければいけないということになった。

 そこで平成11~12年に川崎医大と東海大で試行的事業を行ない、そのデータを基に13年度から本格的なドクターヘリ事業を進めようとしたのです。千葉県は、初年度の13年からこの事業に参加しています。

 

 

本誌 ドイツでは救急通報が入って、その場所や症状などから、これはヘリコプターが必要かどうか、搬送病院はどこがいいか、一瞬のうちに判断して指令を出すディスパッチ・システムがありますが、日本ではどうなっていますか?

益子 それはまだ日本にはありません。日本にはまだ7ケ所しかありませんからね。

 日本医大千葉北総病院は独自の運航管理室を持っています。消防からホットラインでヘリコプターの出動要請が入ってくるんですが、それを受けて運航管理室が気象状態など飛行条件がととのっているかどうかを操縦士やドクターに確認して、良ければすぐに出動します。将来的には、消防とこちらの運航管理や通信網を一元化する必要が出てくるでしょう。

本誌 どのぐらいの広さをカバーしているのですか?

益子 出動しているエリアとしては、半径50キロメートル圏内がほとんどです。しかし、千葉県管轄のドクターヘリなので、房総半島の先の館山あたりはここから100キロほどですが、要請があればもちろん飛んで行きます。この北総病院に戻ってくるUターンと、現場からその他の病院に患者を搬送するJターンの割合は、ほぼ2対1です。

 

 

本誌 現場として早急に解決しなければならない問題は何でしょうか?

益子 一つは、ドクターヘリが高速道路上の現場に降りられるようにしてもらいたい。現状はなかなか降りる許可か出ない。一刻を争うわけですから、何キロも手前のサービスエリアに降りろでは困るわけです。

 もうひとつは、運航時間の問題です。千葉県の交通事故は、死亡事故の7割がドクターヘリの運航時間外に起きています。現在の対応時間は午前8時30分から日没の30分前までですが、これを日の出から午後8時までとすると45%ぐらいまで対応できるようになります。

本誌 日本では今、医師が乗り込んで行くドクターヘリですが、アメリカのように救急救命士が乗り込んで行く形ではいけないのですか?

益子 いいえ、そんなことはありません。ただ、医師と救急救命士の提供できる医療サービスの質に差があると、問題が起こってしまいます。ですから、救急救命士にはできるだけヘリコプターに乗って現場を経験してもらい、スキルを上げてもらう。そして、彼らに権限を与え、彼らが消防防災ヘリなど医師の乗らないヘリコプターで出動しても、責任担当医を決めてメディカル・コントロールをしっかりとして、その担当医の指示で現場の救急救命士が医療サービスを始められるようにしなければならない。

 権限に関して言えば、現在救急救命士は、気管挿管も心臓の除細動も薬物も、心臓が停まった人にしか処置できません。半年間一生懸命勉強して国家試験を通って厚生労働大臣の認定証をもらっても、資格がないとき同じなんですね。これは医療資源の大きな無駄遣いだと思いますね。もっと色んなことをやってもらうようにするべきです。

 しかし、これは医療行為ですから、危険と背中合わせです。したがって、きちんと責任を取れる体制でやらないといけない。メディカル・コントロールというのはそういう意味なんです。

 アメリカは、フライト・ナースとフライト・パラメディックが主力です。彼らは救急治療に関する高い技能を持っていて、ドクターと遜色ない医療サービスを提供できるのです。それは、きちんと責任をとれる医師がいて、彼らを教育し、プロトコルをつくって、それにそって活動してもらう。プロトコルから外れる時は、必ず基地からの指示を仰ぐ。そういったことを徹底しているからできるわけです。

 日本もこれに向かって行くべきだと思います。厚生労働省管轄のドクターヘリが、どんどん全国に配備されていけばいいのですが、7県から後が伸びていない状況ですから、今ある医療資源を有効活用するという方法を考えなければならないですね。ヘリコプターに関しても、7県のドクターヘリだけではなくて、全国には消防防災ヘリや自衛隊、警察、海上保安庁のヘリコプターもあるわけですから、それらを総合したネットワークができれば、素晴しいと思いませんか。

(「FASE REPO」誌2004年6月号より)