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ヘリ救急医療の動画撮り共有 愛知医大など学習ソフト<中日新聞>
2016.05.30

 「空飛ぶ救急治療室」と呼ばれるドクターヘリの搭乗員向けの学習ソフトを、愛知医科大病院(愛知県長久手市)とIT企業のコア中部カンパニー(名古屋市)が共同開発した。医師や看護師らが救命処置に当たる様子をスマートフォンで動画撮影し、若手スタッフが判断力を養う教材として使う。将来的にはドクターヘリがある全国の基地病院で動画を共有し、学習に役立てたい考えだ。 

 愛知医大では昨年、三百十七回出動したが、着陸場所や患者の容体など活動は毎回異なり、状況に応じた判断力が求められる。教育中の医師や看護師は人形を使って訓練するが、現場の臨場感に欠ける。ヘリの搭乗研修をしても出動要請が入るとは限らず、育成面の課題が多かった。

 そこで医療現場の課題を企業の技術力で解決する「医工連携」の一環で、名古屋商工会議所が昨年一月、愛知医大に企業関係者を招いて発表会を開催。高度救命救急センター救急集中治療室の坂田久美子看護師長が「ヘリでの活動を疑似体験できる教材が作れないか」と提案すると、コア中部カンパニーが名乗りを上げた。昨年末に開発に着手し、一千万円をかけて三月にシステムが完成した。

 ヘリに搭乗する医師や看護師は、フライトスーツの胸ポケットにスマホを装着。撮影開始などカメラは院内の管制室から遠隔操作し、救命処置を妨げないようにした。撮影された動画は、リアルタイムで院内のサーバーに転送され、蓄積される仕組み。コア中部カンパニーの海野浩之ビジネスソリューション部長は「万が一スマホを紛失しても、動画がスマホ内に残らないようプライバシーに配慮した」と話す。

 フライトドクターの寺島嗣明助教は「動画を通じ、一人の経験を多くのスタッフが共有することで医療の質が高まり、最終的に助かる患者さんが増える」と語る。四月から動画の撮影を始めたところ、ヘリでの活動が院内でも同時進行で分かるようになり、「指示を出したり、院内の受け入れ態勢を整えたりと副次的な効果も大きい」という。

 撮影した動画は現在、プライバシーを保護する処理をした上、学習教材に編集している。今回の試みを十月に埼玉県で開かれる日本航空医療学会で発表し、ドクターヘリがある全国約五十の基地病院に展開するきっかけにしたい考えだ。

(経済部・白石亘)  (2016年5月30日中日新聞)