救急医療の切り札と言われるドクターヘリの広域的運用について考えるシンポジウムが17日、東京都内で行われた。これはドクターヘリの基地病院などで組織するNPO法人「救急ヘリ病院ネットワーク」(国松孝次理事長)が主催した。
ドクターヘリは現在、32道府県38病院で運用されている。そうした中で基本的に道府県単位で運用されているドクターヘリについて、県域を超えて有効に運用する方法を探るのが目的。
シンポジウムでは石原信雄・元内閣官房副長官が「危機管理の要諦」と題して基調講演。阪神大震災での経験などを引きながら「命令系統をシンプルにする」「想定しないことは必ず起こると考えるべきだ」などと述べた。また、ドクターヘリに対しては1機当たりの運用費が年間2億円近い現実を踏まえて「これは財政の問題と裏腹で、非ノーマルの時の備えにそれだけの負担をするかは知事なり県幹部の判断」としたうえで「実際にドクターヘリで人命が助かった具体的なケースをどんどん紹介すべきだ」と話した。
シンポジウムでは、兵庫・鳥取などや九州北部、北関東で行われている県単位を超えた協力体制、熊本で行われている熊本県消防ヘリと熊本赤十字病院を基地とするドクターヘリとの相互協力体制などが紹介された。また日本航空医療学会の「災害時におけるドクターヘリのあり方委員会」の松本尚委員長(日本医大千葉北総病院)から、全国より18機が集まった東日本大震災の出動などの経験を踏まえ、基地病院から300キロ範囲でドクターヘリを複数参集させるルール作りの提案などが話された。
パネルディスカッションでは、「県という行政単位に縛られると、ヘリという“飛び道具”が制限される」「他県に出動した場合(警察や消防など周波数が違うため)通信に問題が出る」「消防ヘリに対してよく説明して情報を共有するのが重要」などの意見が出された。【黒川将光】(2012年10月17日毎日新聞)