事故・災害現場へ先行する
ドローンとドクターヘリの
コラボレーションへ
物流や災害対応、測量、警備業など活躍の場が広がっているドローン。しかし、災害医療や救急医療など、「医療」へのドローンの利用はまだ進んでいません。そこで、HEM-Netでは、ドローンとドクターヘリのコラボレーションによる医療モデルを確立するため、新たな取り組みを始めました。
ドローンの医療への利用を目指し
産学でコンソーシアムを結成
日本では、2015年9月に航空法の一部が改正され、初めてドローンが「無人航空機」として法的に位置付けられました。同年12月には、急速に進むドローンのビジネス展開と技術開発に対応しつつ運用上の課題を解決するため、政府内に「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が設置されました。
この官民協議会は、2016年4月に「小型無人機の利活用と技術開発のロードマップ」(現在は「空の産業革命に向けたロードマップ」に改称)を策定し、「物流」「災害対応」「インフラ維持管理」「測量」「農林水産業」の5分野をドローンの利活用の対象に位置付け、さらには2019年6月に「警備業」を追加しました。
HEM-Netでは、このロードマップの1分野に「医療」を位置付けるため、日本ドローン・エアレスキューコンソーシアム(JDAC)を2019年7月に結成。産学が力を合わせ、ドローンとドクターヘリのコラボレーションによる医療モデルの研究を進めています。
期待されるドローンの活用
ドローンの医療面での活用は、欧米では、すでに実施されています。
例えば、スイスではドローンを用いて医療用サンプルを輸送するという仕組みが2018年から始まっています。渋滞などの影響を受ける陸上の輸送に対し、空を使うことで大幅に輸送時間は短縮され、速やかに検査や診療が行われるようになったといいます。
写真はイメージです。
一方、ドイツではアウトバーンでの交通事故を想定し、5kmエリアに1機ずつドローンが配備されています。高速道路で交通事故が起きたときドローンがまず現地に飛び、現場の状況を撮影。映像や画像を医療機関などに送信します。これによりドクターヘリが到着するまでの情報収集のタイムロスを防ぐことができます。
写真はイメージです。
物流という観点から見ると、一部の国内の製薬企業がドローンメーカーなどと共同で、離島などの遠隔地に処方薬などを配送するという実証実験が始まっています。
写真はイメージです。
九州豪雨時に実証実験
2015年9月に制定された改正航空法では、ドローンは高度150m以上の飛行が禁止されるなど、規制が設けられました。ただし、国や自治体、またはその依頼により捜索・救助を行う者が捜索・救助のためにドローンを使う場合は、この規制が適用外となり、飛ばすことができるとされています。
そのようななか、2017年の九州北部豪雨では自衛隊と消防、警察、日本ドローンコンソーシアム(JDC)の4者が集い、災害現場でのドローンの活用を検討。有人ヘリを飛ばす前の1時間だけドローンを飛ばし、災害現場を撮影するという実証実験を行いました。下にあるのがその映像です。国土交通省国土地理院のホームページより。
今後考えられるドローンを用いた
医療モデル
ドローンとドクターヘリのコラボレーションによる医療モデルで想定されるドローンの役割は、第一に事故情報の収集です。例えば、山岳地帯で遭難事故があった場合、ドクターヘリが出動する前にドローンを飛ばして事故の状況を把握することは有効です。
第二に医薬品や機器を運ぶという役割です。事故現場の救護が必要な人に、簡易な計測器や救急セットを届けるという物流的な役割もあります。その場合、体温測定のような簡単な検査だけでなく、AED(自動体外式除細動器)からスマートフォンに心電図データを飛ばしてそれを医療機関に転送する、あるいはドローンに搭載された赤外線カメラで傷病者の体温の状態を確認して医療者が状況を判断するといった、より高度な関わり方も考えられます。これらが実現できた先には、遠隔医療も視野に入ってきます。
スイスのように傷病者の血液サンプルを市街地の医療機関に運ぶことが可能になれば、救急車が医療機関に到着する前に血液検査の結果を知ることができ、速やかな治療につながります。
写真はイメージです。
実用化に向けてのロードマップ
HEM-Netとしては、JDACにおいてドローン開発業者と救急医との話し合いの場を設けたり、ドローンとドクターヘリのコラボレーションの実証実験を企画したりする一方、「空の産業革命に向けたロードマップ」に「医療」を加えるよう政府に働きかけていくことが必要と考えています。
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