認定NPO法人
救急ヘリ病院ネットワーク
HEM-Net

スペシャルコンテンツ
救われた命
VOL.3
素早い止血とドクターヘリ搬送で、救われた右腕
(鎌による右腕切創)
木村賢(きむら まさる)さん
(新潟県柏崎市在住 取材当時69歳)

大出血を起こしているような大ケガでは、その場の素早い止血処置が予後に大きく影響します。鎌で腕を大きく切ってしまった木村賢さんは、フライトドクターの対応で一命を取り留めるとともに、腕の切断を免れました。(2018年11月発行の『HEM-Netグラフ』49号の記事を再編)
2020.4.1
栗採りで使った鎌が右腕をざっくり……
2017年9月15日。自宅から山道をほどなく登ったところで、栗を採っていた木村さん。大きな栗の木に登って、たわわに実った栗を鎌で刈り、地面に落としていくという作業を続けていました。

「かなり採れたので、もうこれでやめようと木から降りようとした途端、右腕から血がパァッと噴き出したのです。何が起こったのか、とっさには分かりませんでした」(木村さん)

実は、木村さんが栗狩りに使っていた鎌は、長さ2mほどの竹竿の先に稲を刈る鎌の刃をくくりつけたお手製のもの。木から降りる際に足下に気をとられて、その鎌の柄を放してしまったため、刃が勢いよく落ち、右腕をざっくりと切ってしまったのです。

「血まみれのまま木から飛び降り、自宅に向かって走り出しました。ちょうど200mほど離れたところで工事が行われていて、作業をしている人がいたので、『救急車を呼んでほしい』と頼みました」(木村さん)

この日のことを、妻の直子さんはこう話します。

「いつも孫たちと夕食を17時にはとるのですが、この日はなかなか帰ってこない。『何かあったのでは?』と心配していたら、ちょうどそのときに救急車が目の前を通り、山道へ入って行ったのです。救急車の後を追うと、血だらけで横たわっているお父さんが見えました」

ドクターヘリ搬送の経緯
2017年9月15日
16:54 消防覚知
17:12 救急隊現着
17:13 ドクターヘリ出勤要請
17:19 ドクターヘリ出勤
17:33 ランデブーポイント着陸
17:34 患者接触
17:42 ランデブーポイント離陸
17:50 長岡赤十字病院着陸
ヘリ搬送後、動脈や神経を繋ぐ手術を実施
救急隊は現場に到着した直後にドクターヘリを要請。ヘリは近くの学校のグラウンドに着陸しました。

木村さんはヘリ搬送で長岡赤十字病院へ。フライトドクターの佐藤栄一医師(長岡赤十字病院)によると、「右腕の動脈、神経、筋肉、腱がズバッと切れている重傷」だったといいます。直ちに輸血がなされ、動脈や神経などを繋ぐ手術が行われました。病院での初期治療に当たった小林和紀医師は、こう話します。

「腱や神経を繋ぐ手術は命にかかわるものではありませんが、できるだけ早く手術をしないと、機能の回復に影響が出てしまいます。ドクターヘリの迅速な搬送のおかげで最善の手術ができました」

木村さんは手術後8日目に無事退院。看護師でもある直子さんは、当時のことをこう振り返ります。

「あの日の2、3日前まで天気が荒れていたんです。そういう日ならヘリは飛べなかったでしょうし、雨で工事が行われていなければ作業員もいなかったと思います。そんな状況だったら、どうなっていたか分かりません。本当にすべてがタイミングよく、ドクターヘリで搬送していただいたおかげです」

フライトドクターの止血処置が命を救った
フライトドクターが行った現場での対応について、小林医師は言います。

「出血を伴うケガの場合、ターニケット(救急止血帯)での止血処置が必要となりますが、これだけの大ケガの場合、現場での止血の出来で救命率が変わるほど重要になります。ターニケットは医師でなくてもライセンス上は使えますが、このときはフライトドクターの処置が的確だったため、救命につながったのだと思われます」

事故から1年が経った今、右腕に少し違和感はあるものの、日常の生活には支障がないほどに回復したと話す木村さん。

「今は耕耘機で畑を耕すこともあるんですよ。本当に感謝です」(木村さん)


木村賢さんの妻・直子さん