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東京の救急体制 改善が急務<読売新聞>
2016.06.10

東京の救急体制 改善が急務

全国都道府県で、救命救急体制に最も不安があるのはどこか。答えを聞けば、多くの人は驚くだろう。首都・東京である。

2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、さまざまな面で首都の危機管理が問われているが、救命救急体制の不安な実情を、二つの観点から強く指摘しておきたい。

まず、東京都には「ドクターヘリ」が1機もない。

東京消防庁に問えば「消防ヘリが8機あり、それをドクターヘリ的に運用している」と答えるだろう。しかし消防ヘリは、救急活動のほか、消火や災害対応など多目的に運用されるものであるから、ドクターヘリ的救急活動に使うと言っても、一刻を争う救命の場面で“本物のドクターヘリ”と同じように機能を果たさせるのは、まことに難しいのである。

ドクターヘリとは、現場に医師と看護師を急派し、機内で治療を進めながら患者を搬送する。「空飛ぶ救命救急室」だ。38の道府県に46機が配備されており、拠点病院に駐機して、即座に医療スタッフとともに飛び立てる態勢になっている。

ところが、都の消防ヘリは病院に駐機しているわけではない。出勤要請があると、まず協力病院に連絡して搭乗できる医師を探す。見つかってから迎えに行き、現場に向かうのである。

全国のドクターヘリは1機当たり年間520回出動しているが、都の消防ヘリの救急出動は1機当たり年50回程度にとどまる。

しかも、この中には救急患者の搬送のみを行った事例も相当数含まれているので、医療スタッフとともに急行した「ドクターヘリ的運用」の数はもっと少ないはずだ。このことは、消防ヘリにドクターヘリと同じような救命実績を期待するのは、仕組みの上で無理であることを物語っている。

「東京は救急車を240台も有する。ヘリよりこちらの方が効率的だ」という声もあろう。しかし、ここにも問題がある。

総務省消防庁がまとめた119番受信から医療機関への患者収容に要した時間を示す統計を見ると、2014年の所要時間は全国で39.4分。これに対して東京都は51.8分もかかり、この面でも全国ワーストワンなのだ。交通量の多さが主因ではない。現場で搬送先を探す時間と、到着した病院で患者を医師に引き渡すまでの時間が東京は突出して長い。

さまざまな事情はあるのだろうが、東京はヘリにしても救急車にしても、なまじハードな面が充実しているため、搬送手段や搬送先の選択肢が限られる地方よりも時間を無駄にしているように見える。

狙撃されて重傷を負った経験のある私は、東京消防庁の救急隊員の優秀さと使命感は身にしみてよく知っている。しかし、これは現場の問題ではなく、仕組みの問題である。

患者にいかに早く救急医療を施し、搬送時間をいかに短縮するか。消防・医療双方の関係者が英知を結集して最適の仕組み作りに取り組むことが今、首都・東京に求められている。   国松 孝次

 

2016年4月14日 読売新聞 「論点」掲載 記事