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ドクターヘリ導入から1年 群馬 <asahi.com>
2010.02.22

ドクターヘリの県内への導入から、18日で1年がたつ。今月6日までに運んだけが人や病人は282人。時速200キロメートルのスピードを生かした速やかな搬送で、患者の命を救う手段として定着しつつある。一方、運用に多大な費用がかかるなど課題も残る。(新宅あゆみ)
 

 15日正午ごろ、前橋赤十字病院ドクターヘリ通信センターの運航管理者(CS)室に、消防本部からホットラインで出動要請が入った。前橋市内でバイクで転倒した男性の脳の血管が傷ついた疑いがあり、速やかな診療が必要だという。
 

 CSから連絡を受けた救急科の医師と看護師が屋上のヘリポートに急ぎ、待機していた操縦士、副操縦士と乗り込む。一刻も早く駆け付けるため、患者の状態は飛行中にCSが知らせることになっている。ヘリは出動要請からわずか5分で飛び立って行った。
 

 ドクターヘリの利点は、医師を迅速に現場に運び、到着した時点から高度な治療を始められる点だ。数分から数十分の治療開始時間の差が、命や後遺症にかかわる重症の病気やけがに大きな威力を発揮する。
 

 発生現場や、県内の公園や運動場にあらかじめ設定された「ランデブーポイント」まで、県内なら離陸から20分以内で到着するという。ランデブーポイントは県内に約500カ所ある。
 

 これまで運ばれた282人の内訳は、外傷が137人(49%)、心筋梗塞(こう・そく)など心大血管疾患が39人(14%)、脳梗塞など脳血管疾患が37人(13%)。運行開始以来の出動件数について、前橋赤十字病院の中野実・高度救命救急センター長は「最初の1年としては多い」と評価する。
 

 一方で課題も残る。中野センター長によると、ヘリの運用には大きな費用がかかり、公的な補助金だけではまかなえないという。
 

 国はヘリ1機あたり、年間計約1億7千万円が必要だと試算し、県と半額ずつの補助金を出している。だがこの金額は、医師1人、看護師1人が年間250回の出動に対応することを前提とした計算。実際には、同病院では救急科医師9人と看護師4人で対応し、出動回数はすでに想定を超えている。機器の維持費などにも費用がかかる。赤字分は病院とヘリを所有する航空会社が負担しているのが現状だ。
 

 ランデブーポイントを利用しきれていないことも課題。発生現場から最も近いポイントを使うのが理想だが、整備人員の不足などで、緊急の離着陸に即応できないところもある。「整備せずに使えるポイントを遠くても選ばざるをえない場合もある」(多野藤岡広域消防本部)という。
 

 また、治療が必要なケースを見逃さないためには、積極的な出動要請が求められるが、地域によって要請数にばらつきがある。消防本部別でみると、出動件数(運行開始~今年1月16日)は、72件から10件まで開きがある。
 

 中野センター長は「制度が定着するまでにはまだ時間が必要だが、『防ぎえた死』をゼロにしたい」と力をこめる。(2010年2月18日 asahi.com)