認定NPO法人
救急ヘリ病院ネットワーク
HEM-Net

ニュース&アーカイブ
ニュース
保険制度とヘリコプター経費  <フォローアップ討議>
2006.10.15

HEM-Netでは2006年1月25日、前日の国際シンポジウムを踏まえて、さらに詳しく細部の問題点について部内討議をおこなった。出席者は外国から招いた3人の講師とHEM-Netの各理事である。ここに、その討議の内容を掲載して大方のご参考に供したい。

 

 

 

國松孝次(理事長) 昨日は、お三方から密度の濃いお話をうけたまわりました。本日はそれを承けて、お三方とHEM-Netの理事による部内の質疑および討論をおこないます。

そこで今日は完全な自由討論で、私どもから昨日のプレゼンテーションを聞いた内容についてご質問します。それに対してお答えいただくという形で進めてゆきたいと思います。

 

 

RCCの構成と訓練
國松 最初に、私からマツケアールさんにご質問します。昨日のお話で、レスキュー・コーディネーション・センター(RCC)という機関があって、そこが司令塔の役割を果たすということ。そのRCCは州政府とエイド・オーガニゼーション(救助組織)によって運営されているということでした。RCCという司令塔が州政府によって運営されるのはよく分かりますが、その他のエイド・オーガニゼーションによっても運営されているのは大変興味深い。このエイド・オーガニゼーションとはいったいどんな組織なのでしょうか。この中にADACは含まれるのでしょうか。

次に、RCCの構成メンバーはどうなっていますか。その中には医師は含まれていますか。3番目はかなり高度な知識、技能のあるメンバーがいないと機能しないだろうと思いますが、構成員のトレーニングのカリキュラムはどのようになっているのでしょうか。

マツケアール 第1点のエイド・オーガニゼーションとRCCの関係ですが、これにはドイツの伝統がかかわっています。もう一度、スライド16をご覧いただきたいのですが、画面右下にエイド・オーガニゼーションの箱があり、その中にドイツ赤十字、カトリックの組織、社会福祉団体などが書いてあります。これらは伝統があって、中世の時代に起源があります。彼らは地上での緊急救助活動をしてきましたが、その歴史的経過からエイド・オーガニゼーションとしてRCCにかかわっています。

しかし、ここ数年の間に変化があって、ところによっては州がRCCを担当するようになりました。ヘリコプターを使うか救急車を使うかを決めるような業務は、州政府のような中立的な組織の方がいいという考え方です。

2番目の質問ですが、RCCの構成員は特別な訓練を受け、実際に現場での救助経験を持っています。しかし医師はいません。ただ、ラインランド・プファルツ州のマインツという町は例外で、専門医がRCCを主導し、ヘリコプターを使うべきかどうかも医師が決めています。なお、ヘリコプター、救急車など、どのような手段で救急現場に出動するかの決定はコンピュータシステムを持っているところが多く、地上のドクターカーの方が安いということで使う場合も多く見られます。

3番目の訓練の問題については、コンピュータやITシステムの操作はもとより、いくつもの機関が一緒になって、チームとして働くので、そのための訓練も必要です。またRCCの要員は危機管理の訓練も受けています。

國松 関連してもう一問ですが、RCCと警察、消防の関係は、消防の職員がセンターに来るということですか。それとも無線で連絡をするとか、独立の組織になるのでしょうか。あるいはRCCに派遣されてくるということですか。

マツケアール 現在のところ、通常はエイド・オーガニゼーションと州がスタッフをRCCに送っています。また新しいやり方で、警察と消防とRCCを一つにしているところもあります。しかし本来、警察は独自のコーディネーション・センターを運営しています。ただ無線システムは共通で、エイド・オーガニゼーションも軍も国境警備隊も消防も使います。

 

公的保険と費用請求
篠田伸夫(理事) マツケアールさんに患者の立場でお尋ねします。救急へリによって医師の初期治療を受け、病院に運ばれたような患者には、ヘリコプターの運航者から運航費が請求され、入院した病院から治療費が請求されるのか。それとも、患者はそれらには関わらず、運航費は運航者から、病院の治療費は病院から健康保険に直接に請求されるのか、どちらでしょうか。

マツケアール 昨日、健康保険関係のスライド24でお見せしたように、ドイツの人口の88%は公的健康保険でカバーされています。この保険に加入している患者はまったく請求書を受け取りません。病院と運航者はそれぞれの請求書を保険会社に回します。

篠田 わかりました。もう1点あります。ドイツの健康保険は疾病金庫というものが運営しているとのことです。かたや、いま保険会社が支払いに応じるというお話がありましたが、疾病金庫と保険会社の関係はどういうことでしょうか。

マツケアール 法定健康保険は文字通り法的根拠を持って設立された団体です。公社のようなもので保険会社のかたちになっており、これに加入している被保険者は会員権を持っています。すなわち普通の民間の保険会社と同じで、死んでしまったり薬剤が必要な疾患で治療を受けたときに、請求書は法定健康保険という公社のようなところへ行きます。経費の請求は、あくまでもそこに回ります。

コストに充当するための資金は企業保険で、雇用者が支払うのが半分と従業員自身の収入から差し引かれるのが半分です。これは法律に定められていますが、被雇用者は従業員として給料から引かれます。スライド22に示すとおり、下にいろいろなロゴが出ていますが、こういったところが保険を担当しています。これらの保険会社は非常に大規模な団体で、請求された金額を支払います。

 

 

公的保険と民間保険の関係
國松 それに関連して、スライド22によれば、保険料率は14.2%ですが、それは被雇用者の収入が3,900ユーロになるまでというお話でした。3,900ユーロまでは14.2%でいく。それは雇用者と本人と半分ずつ、つまり7.1%ずつ負担すると理解してよろしいでしょうか。

そして被雇用者が3,900ユーロを超えるとプライベート・インシュアランスに入るという話でした。この場合、法定健康保険とプライベートと両方に入るのですか。つまりプライベート・インシュアランスはアディショナルですか。それとも全く別に、月収3,900ユーロを超えた人は法定健康保険から外れてプライベートに移ってしまうのでしょうか。両者の関係を教えていただきたい。

マツケアール ドイツのシステムは独自のもので、保険料は雇用主も従業員も7.1%ずつ出して、合算して14.2%になります。その場合、現在は月給で3,900ユーロが区切りの金額になっています。これを超えても任意でそのまま法定健康保険に入っていてもいいことにはなっています。しかし、給与が上がれば私的なものを独自に買えるわけで、そのほうが選択肢が広がる。子どもや扶養者がたくさんいたり、高齢者になると高い保険が必要な状況になります。法定健康保険(SHI)のような公的で受け身のものは低所得者ばかりになって、高所得者はどんどん個人の私的なものに移っていくことになります。

しかし、希望があれば任意加入者でいることはできます。一種の混合状態になっていて、ある人はSHIにとどまり、さらに大学教授の治療を受けられるような高い個人的な私的保険も買う。合算して両方使っている人もいます。

REGAの特別任務
西川 REGAのアンビュランスジェットは、たびたび日本に来るのでしょうか。その費用はどのようにしてまかなわれているのでしょうか。

シュトゥンツィ このサービスは、ヘリコプターのサービスとは全く別のものです。ヘリコプターはスイス国内の救急を対象として、24時間いつでも飛べるように待機しています。一方、救急ジェットはインターナショナル・サービスで、大陸を越えて患者さんを搬送するものです。したがって1分、2分を争うような緊急出動がないので、より安定した運用が可能です。

そこで競争相手となるサービス・プロバイダーが出てきます。たとえば日本人の患者さんがアメリカに運んでもらいたいとき、REGAにするか米国のプロバイダーにするか、さらにはほかのアンビュランスジェットを使うか選択することができます。これは、かなり自由化された市場だと思います。

日本にも何回か飛んできたことがあります。REGAのアンビュランスジェットは長距離飛行が可能ですから、ユニークなサービスの売り込みが可能です。集中治療の患者さんを長距離搬送する場合に使っていただけます。

昨年は日本から、生命維持のための体外装置を付けた患者さんを搬送しました。このような搬送は、REGA機のように、キャビン・スペースに余裕のある航空機でないとできません。また途中で頻繁に燃料補給をする必要のない、長距離を一気に飛べるような飛行性能が必要です。

西川 ジェット機の搬送料金は、REGAの会員ならば日本に飛んできてもただですね。

シュトゥンツィ はい、ヘリコプターでも固定翼でも同じです。まずREGAのパトロンでなければなりません。さらに軽症では駄目です。そして一方向だけです。システムの考え方はあくまでも自宅に戻す、帰国するということで、ただでスイスに来たいという人はだめです。(笑)

西川 山の上から牛を運ぶときの料金はどうですか。(笑)

シュトゥンツィ 例外的な作業ではありますが、何年も牛を運んできました。患者とは関係なく、あくまでも社会的なサービスで、山地に住む農家のためです。40年前からやっています。現在も農家は期待しているわけで、余りやりたくないのですが、期待度が高いのでやめられません。

しかし、われわれにとってはよいPRになります。牛がヘリコプターにぶら下がっている写真を見せると、山に住んでいないスイス人でも「なんてすばらしい仕事をしているんだ。貧しい農家のために役に立っている」と思ってくれます。夏だと1,000回ぐらいやります。山に牛が放牧されるので、ピークは8月です。暑いために、牛もかなり高い山地に登ってしまい、道のないところで足を折ってしまうのでわれわれが下ろさなければなりません。これは農家がREGAの会員の場合はタダです。牛も農家の家族ですから、やはりタダです。

西川 REGAの会員でない農家の牛はどうするんですか。(笑)

シュトゥンツィ その場合は実費を負担して貰います。これは人道問題ではないわけで、たとえばほかのヘリコプターで運ぶとか、あるいはそこで屠殺します。われわれもそこまではいきません。ここまでというぎりぎりまでサービスしているので、これ以上はしません。特別サービスです。

医師が飛ばない理由
小濱 アメリカでは、救急車にもヘリコプターにも医師が乗っていない。これは、私の聞いているところでは、ベトナム戦争のあと衛生兵がたくさん帰ってきたためにパラメディックの制度ができた。本当は医者が出たいけれども、パラメディックの制度ができたために、プレホスピタル・ケアは全てパラメディックの担当になってしまった。この見方は正しいでしょうか。

ハットン それほどでもないです。確かにベトナム戦争が終わった時点ではパラメディックはいませんでした。1970年代の終わりから80年代初めにかけてパラメディックの標準化した研修がスタートしました。

救急ヘリには初めのうちは医師が乗っていました。それに代わってパラメディックが乗るようになったのは、実は経済的理由です。ヘリコプターに乗る医師に高い報酬を払うことはできなかったのですが、ただ、研修医ならパラメディックぐらいの費用ですから、ヘリコプターに乗せることもできました。

その後さらに、看護師でも相当なことができるというので医師に取って代わるようになりました。もとより医師の方がいくらかでも治療効果は高いわけですが、ヘリコプターが病院から遠くに待機している場合は、1日2回くらいの出動のために、ヘリコプターのそばに行って待機していなければならない。いつくるか分からない電話を待って、日がな一日テレビを見ているというようなことになります。ですから、医師が飛ばなくなったのは多分、経済的な問題です

小濱 とすれば、医師の報酬が安くなればヘリコプターに乗ることもあるのでしょうか。

ハットン もしかしたらそうですが、なかなかそうならないと思います。お医者さんの給料は下がらないでしょう。特定の地域、特定の分野で競争が厳しくなって医師の給与が下がり始めたときは、別の地方や規模の小さい病院など給与を維持できるようなところへ引っ越していくと思います。医師というものは金があるところに向かって動くことになっています。それが現実です。

したがって今、ヘリコプター救急を考えた場合、何か新しい課題や新しい治療法が出てきて、医師しかできないようなことにならない限り、医師が再び飛ぶことはないと思います。医師はパイオニアとしてサービスを確立することで役割を果たしたのであって、あとはナースやパラメディックに仕事を譲ったわけです。

日本でも初めはドクターヘリが意味を持つと思いますが、将来メディカル・コントロールが確立し、看護師や救急救命士が充分な研修を受ければ、現場や空中での治療行為の98%は可能になります。あとの2%は無線通信などで指示を受けながら治療ができます。

討議のまとめ
國松 議論はまだ尽きないと思いますが、時間も来ましたのでこのへんで終了したいと思います。2日間にわたって大変内容の濃い会議を持つことができました。マツケアールさん、シュトゥンツィさん、ハットンさん、このたびはいろいろ有意義なお話をいただき、本当に有難うございました。

この結果を報告書にまとめ、私どもの活動の成果として発表するとともに、その中の核心部分、特に今後の日本におけるドクターヘリ、その他の救急ヘリ・システム構築のためになすべき提案の中に、お話の内容を生かしていくようにしたいと思います。

また今後とも、もっと広い意味で日本の救急ヘリ・システムの構築のためにいろいろなご意見を承ることがあると思いますので、その際は宜しくご指導いただきますようお願いしたいと思います。以上をもちまして、HEM-Net主催の2日間にわたる国際シンポジウムを終了いたします。(完)