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秋田県内各地 30分でカバー<読売新聞>
2012.01.30

 山間部など医療過疎地の救命救急で効果が期待される県ドクターヘリの運航が23日、始まった。脳や心臓の疾患、交通事故など重篤患者の搬送要請を受けて、医師と看護師がヘリに搭乗し、現地で治療を施せるため、救命率の向上が期待される。一方で、冬期間は雪国ならではの“障壁”もある。(石黒慎祐)

 23日に行われた運航開始式で、基地病院となる秋田赤十字病院(秋田市)の宮下正弘院長は「医師と看護師が搭乗し、現場で治療にあたるドクターヘリは『空飛ぶ救急室』とも呼ばれる。ヘリの運航で地域によらず、高度な医療を提供できる」と述べた。

 ヘリは、人工呼吸器や超音波画像診断装置などが装備されており、高度な医療が提供できるという。医師、看護師とヘリの操縦士、整備士が同病院に毎日待機し、日中のみ出動する。厚生労働省によると、23日現在、本県も含め26道府県で計31機が配備されたことになる。

 ヘリは、119番通報を受けた消防本部が必要と判断し、要請してきた場合、同病院から出動。最寄りの学校グラウンドなどに着陸し、医師らが治療した後、県内の拠点病院へ搬送する。ヘリは要請を受けて3~5分で離陸、県内全域で30分以内に到着できるという。

 着陸地点に指定されているグラウンドなどが除雪されていなかったり、イベント中だったりしても代替場所を確保できるよう、県内に313か所の着陸地点を指定した。

 運航は民間の航空会社に委託。委託費や医師らの人件費など年間約2億1000万円は国と県の補助金で賄い、搬送された患者が費用を支払う必要はない。

 県医務薬事課では、出動回数を年間300件前後と見込んでいる。これまでに仙北市立角館総合病院から秋田赤十字病院まで患者の転院搬送で1回出動した。

 旧厚生省は1999~2000年、ドクターヘリを実験的に運航していた岡山県と神奈川県の事例を基に導入効果をまとめた。脳や心臓の重篤な疾患や、交通事故で重体となった患者の搬送を、ドクターヘリと救急車で比較した場合、死者はほぼ半減、後遺症が残らず社会復帰できた人は2倍以上と推計した。

 国のドクターヘリ調査検討委員会の元委員で、NPO法人「救急ヘリ病院ネットワーク」理事の西川渉さん(75)は「1秒でも早く適切な治療を施す必要のある傷病者にとってヘリは有効な手段」と話す。

 秋田県によると、青森県は既にヘリを導入しており、岩手県が予定通り来年度に導入すると、北東北3県で災害時などに連携し、効率的に運用できる可能性があるという。

 悪天候 飛べない時も

 ただ、雪国ならではの障壁がある。ヘリは安全確保のため、一定の視界が確保されていなければ飛行できない。北海道医療薬務課によると、札幌市に基地を持つドクターヘリは昨年度の12~2月、全要請件数のうち約4割は悪天候などで出動できなかった。ほかの期間は2割程度だった。

 秋田赤十字病院では1月4~22日の平日、先行してヘリでの転院搬送を受け付けた。3件の要請があったが、悪天候のため搬送したのは1件にとどまった。

 同病院の救命救急センター長で、ヘリに搭乗する藤田康雄医師(55)は、「それでもヘリの運航で助かる命が増えたり、後遺症を軽減できたりし、高度な医療を提供できる。これまで重篤患者の救急車での搬送に医師が付き添うケースがあり、医師不足の地域では、一時的に医師の不在が生じていた。今後は我々がヘリで向かうことで、医師不在の時間をなくすこともできる」と導入の意義を話した。(2012年1月29日読売新聞)