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救命率向上と医療費削減の効果
2007.03.14

「ドクターヘリ整備法案」がようやく国会で審議されようとしている。命を救うだけではなく、さまざまな付帯効果が期待できる救急ヘリは、欧米諸国では、もはや常識なのだ――

狙撃事件で実感したヘリコプター救急の必要性
私は、今から十二年前の警察庁長官時代、何者かの狙撃により、腹部に三発の銃撃を受けた。ただちに救急車で日本医大付属病院の高度救命救急センターに担ぎ込まれて緊急手術を受けたのであるが、腹を三発やられて助かったという例はあまりない。

私が奇跡的に一命をとりとめたのは、類(たぐい)稀な名医の執刀のお陰である。ただ、執刀医の先生のお話では、私の病院到着があと十分遅かったら、とても手の施しようがなかったという。救急隊の機敏な活動があって初めて、私の命は救われたのである。

私の病院までの搬送時間は、事件発生後三十分であった。この三十分という時間は、平成十六年中、救急車が救急患者を、事故覚知後、病院に収容するまでに要した時間の全国平均と一致する(「平成十七年度版消防白書」)。これはすばらしい記録で、この時間内に患者の病院搬送が行われる限り、救急活動は救急車に任せておけばよい。ただ、同じ白書は、病院までの患者搬送に一時間以上を要したケースも約十九万人あったことを示している。病院までの搬送に一時間以上かかったというのでは、救急車の機能がよく果たされているとはいいがたい。

さらに、大出血を伴う重度外傷、脳疾患、心臓疾患などの重症救急患者は一刻も早く、専門的な救急医療を施すことができる「救命救急センター」(全国の百八十九カ所の病院に設置されており、「三次救急医療機関」と呼ばれる)に搬送される必要があるが、三次救急医療機関へのアクセス時間は全国的にはどうなっているのか。

消防庁等から公表されるデータはない。ただ、最近、国際医療福祉大学の河口洋行教授の「三次救急施設へのアクセス時間に関する研究」という意義深い研究が発表された(「病院管理」四十三巻一号)。

河口教授はGIS(地図情報システム)を用いて、各市町村の中心部(正確には面積重心点)から、その地区の三次救急医療機関までの車両によるアクセス時間の平均値を推計し、それを全国比較することにより、わが国の三次救急医療体制の実態の把握を試みた。その結果の総括表を図示したのが上の図である。

ここに示された結果は、ある意味で衝撃的である。三次救急医療機関までのアクセス時間が三十分以内というのは、東京と大阪のみである。それ以外の道府県のアクセス時間は軒並み三十分以上であり、六十分以上もかかっているところは、北海道と中小の県を中心に十九の道県に及ぶ。

このように重症救急患者の救命救急センターまでのアクセス時間が予想以上に長く、しかも著しい地域格差が見られるというのは放置できない問題だと思う。この問題に対する解はいくつかあるのだろうが、救急車を補完して、ヘリコプターを活用することが挙げられる。ヘリコプターの巡航速度は時速二百。救急車で間に合わない場合、搬送時間を大幅に短縮することができる。

さらに、われわれが全国的な整備を目指す「救急ヘリ」は、患者搬送という機能を果たすだけのものではない。救急医療用の機材を装備して病院等に待機していて、出動要請があれば、ただちに医師と看護師を救急患者の待つ救急現場に急派するという機能を併せ持ったヘリコプターを意味する。

この「救急ヘリ」の仕組みを、救急車を補完する形で全国的に整備することによって、救急医療で一番肝心な「早期の医療行為の開始」を確保する体制が整うことになり、真に重症救急患者の救命率を上げ、また、その予後の改善を図ることができるというのがわれわれの考えである。

現状は全国でたった11機各県に1機配備を目指す
こうした考えは実は、欧米諸国では一つの常識として定着しており、「救急ヘリ」は特別視されることなく、ごく日常的に運用されている。

ドイツは日本とほぼ同じ国土面積を持つが、「救急ヘリ」が全国の七十八カ所の拠点に整備され、医師等を搭乗させたヘリコプターが、事案通報を受けてからおおむね十五分で救急の現場に到着し、治療を開始する。ドイツは、「救急ヘリ」の活躍により、交通事故死者を二十年間で三分の一に減少させたことを誇りにしている。

スイスも、ドイツと並んでREGAという世界最高水準のヘリコプター救急制度を有しており、九州ほどの国土にある十三カ所の拠点を中心に、全国どこへでも、十五分以内の医師の現場到着を原則とする体制を確立している。

アメリカにおけるヘリ拠点は四百五十カ所。医師に代わって、医師と同等の医療行為を行う資格のある医療技術者(パラメディック)が活躍していることで有名である。

ひるがえって、日本はどうか。

われわれのいう「救急ヘリ」の要件を満たす「ドクターヘリ」は厚生労働省の主管事業として運用されているが、様々な隘路があり、目下のところ、北海道と九つの県の十一カ所の拠点に十一機が整備されているにすぎない。

ドクターヘリのほか、救急業務の遂行を本来任務とするものとして消防防災ヘリがあり、全国に七十機配備されている。だが、消防防災ヘリは多目的ヘリであるから、いつも救急用務で飛ぶというわけにはいかない。実際にも救急飛行実績は、十日に一度飛ぶ程度にとどまっている。しかも、医師等を現場に乗せていく体制は取っていないのが普通で、とても「救急ヘリ」の要件を満たすものではないのが現状である。

われわれは、真に人の命を救うことのできる救急医療体制を確立するためには「救急ヘリ」はなくてはならないインフラだと確信しており、現状を変革し、「救急ヘリ」の要件を満たすヘリコプターを各県に少なくとも一機整備し、救命救急の実をあげていくべきだと主張しているのである。

救急ヘリ活用が確立する広域救急医療体制
ヘリコプターを活用すれば、救急医療圏は格段に広域化する。救急車ではどうしても「最寄り」の病院に患者を搬送するにとどまることが多いが、ヘリコプターを活用すれば、はるかに広域に、患者にとって「最適の」病院を見つけて搬送することができる。一つの基幹病院に専門医を集中して、広域医療圏をカバーできる点で、現在の医療改革の方向を支持することにもつながる。

また、特に大事故、大災害の場合、広域救急医療圏を確立しておくことは、負担を分散しつつ、迅速的確に大量の救急医療処置を行う上で極めて重要なことである。ヘリコプター救急体制が確立していると、どう違うか。一つの実例を紹介しよう。

一九九八年六月、ドイツのハノーバー近郊で、死者百一人を出す国際列車(ICE)脱線事故が起こった。この時、救急車搬送された負傷者は約百三十人。ヘリコプターは三十九機出動し、八十七人の負傷者を半径百五十キロ圏の二十二の病院に搬送した。事故発生後二時間で搬送は完了。搬送先の病院が受け持った負傷者はおおむね十人前後。最寄りのハノーバー医大病院の収容者は六人であったという。これに対し、二〇〇五年四月に起きた「福知山線事故」の場合、ヘリの出動は六機で、十人の負傷者を大阪等の遠隔の病院に搬送しているが、負傷者の大半は救急車で搬送された。今、ここで両事故を軽々に比較するつもりはない。ただ、一点、指摘したいのは、救急車だけを主力とする救急活動の場合、どうしても負傷者は近くの病院に集中的に搬送されるということである。正確な記録ではないが、兵庫医大病院に約百十人、尼崎中央病院に約七十五人、関西労災病院に約六十人という収容データが残っている。

救急活動に当たった救急隊員は懸命にピストン輸送を行ったことであろうし、大量の患者を引き受けた医師等は、献身的な治療に当たったことであろう。その努力は称賛されてよい。ただ、両事故の救急活動および救急医療行為の効率性の比較は、いつの日か、冷静かつ客観的に行ってみる必要がある。

ヘリによる早期治療で救命率も予後も改善
医師等をいち早く救急現場に送り込み、早期に治療を開始する「救急ヘリ」は、救急車に比べて、より高い救命率とよりよい予後の改善をもたらすであろうことは容易に想像がつくし、欧米各国では広く認められているところである。しかし、それを定量的に数値で表した研究は、まだほとんどない。

この点、日本医大の益子邦洋教授などの厚生労働科学研究班の救急専門家が、平成十五年中、ドクターヘリ運航七病院で取り扱った救急患者につき、ドクターヘリ搬送の実転帰と、その患者を救急車搬送したと仮定した場合の推定転帰を比較して行った研究がある。それによれば、死亡は二七%削減され、重度後遺症患者は四五%削減されたという結果が示された。

この研究には、転帰推定の判定基準が明確に確立していないことと、個々の判定を第三者機関が検証する手順が踏まれていないなど、今後改善されるべき課題があるので、そうした点を修正した研究の続行を企図しているところである。

ドクターヘリには医療費の削減効果も
救命率が上がり、予後がよくなれば、医療費は少なくて済むというのは、ある程度、予測のつくことであるが、これも、実際に数量的に明らかにした研究は皆無に等しい。

ただ、最近、東大医科研の山口拓洋博士(生物統計学専攻)が当法人の依頼を受けて行った研究がある。山口博士は、日本医大千葉北総病院で取り扱った交通事故患者のうち、ドクターヘリと救急車の両方競合的に利用されている地域の患者を選定し(ドクターヘリ二十六人、救急車四十四人)、それらの者を、年齢、性別、外傷重症度を表すInjury Severity Score(ISS)等でそろえて比較したところ、ドクターヘリ搬送患者のほうが、入院日数で十七日短く、入院保険点数で十一万点低いという結果が得られた。これが「救急ヘリ」の医療費削減効果を実証したほぼ唯一の研究といえるが、次号でその詳細を述べてみたい。(次号へ続く/月刊ビジネス情報誌「エルネオス」2007年1月号掲載)

救命と予後の改善に向けたシステム設計

<承前>

警察庁長官時代に狙撃されて腹部に3発の銃撃を受けながら一命を取り留めた体験を持つ國松孝次氏が取り組む「救急ヘリ」の普及。その効用はもっと認識されるべきだ――

特別措置法の制定で救急ヘリ導入促進へ
先号で述べたとおり、医師等を現場に急派するとともに、患者を迅速に最適の病院に搬送する機能を有する「救急ヘリ」を活用することにより、重症救急患者の救命率の向上と予後の改善を図ることができる。このことは、少なくとも先進国といわれる国ではよく認識されており、お国柄によって多少の違いはあるが、「救急ヘリ」の仕組みが整備されている。

それなのに、日本だけがひとり取り残された形で、遅々として整備が進んでいない。とても先進国とはいえない現状にあることが、多くの国民には、実はほとんど知らされていない。

われわれは、平成十七年三月に「わが国ヘリコプター救急の進展に向けて」と題する総合レポートを取りまとめて以来、「救急ヘリ」の全国整備のために取るべき方策について各般にわたる提言を行ってきた。

そのなかで何よりも肝要なことは、国が立法行為を通じて「救急ヘリ」の整備の重要性と必要性を明らかにし、整備の枠組みをはっきりと示すことであると考えて、「『救急ヘリ』整備緊急措置法」(仮称)の制定を訴えてきたところである。

幸いなことに国会において、「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法案」の審議が大詰めを迎えており、遠からず同法の成立が期待されている。この法律に言う「救急医療用ヘリコプター」とは、われわれの言う「救急ヘリ」とほぼ同義であり、われわれはこの法律の成立を心から歓迎したい。

今後、新しい法律ができれば、それに基づき、「救急医療用ヘリコプター」の全国整備が進められることになるが、われわれは、「救急ヘリ」の普及を組織目的とするNPO法人として、新法の施行状況を注意深く見守りながら、その具体的なシステム設計に関して必要な提言を行っていきたいと考えている。

救急車で間に合わない時「救急ヘリ」と連携する
私などが各地で講演をすると、どうしても「救急ヘリ」の必要性を強調するものだから、聞いている方々のなかには、何か「救急ヘリ」を救急車と同じ頻度で、毎日ブンブン飛び回るようにすべきだと主張しているようにお感じになる方がおられる。

しかし、「救急ヘリ」は、大量出血を伴う外傷、心臓疾患、脳疾患など、一刻を争う治療を要する重症救急患者のためのものであって、そう頻繁に出番のあるものではない。

「救急ヘリ」の要件を満たす日本のドクターヘリの出動は、平成十六年の実績で、一機平均、年間四百回程度。せいぜい一日一回強である。ヘリコプター救急の先進国であるドイツやスイスでも、ヘリの飛行回数は、一機当たり一日二回か三回である。

救急活動の主力は、今までも、今も、これからも救急車であることは変わらない。ただ、救急車で間尺に合わない、ここぞという時のことを考えて、「救急ヘリ」を用意しておく。言い換えれば、救急医が、今ここに「救急ヘリ」があったら、この患者は助けられたのに、それがないから助けられなかったということのないようにすることが大切なのである。この体制を整えない限り、人の命を救う危機管理が万全であるとはいえないと思う。

実は、「救急ヘリ」の車両版である「ドクターカー」というものを配備している市がある。都市部では、「救急ヘリ」より「ドクターカー」のほうが使い勝手がいいこともあるだろう。

肝心なことは、救急関係者が、「救急車」、「救急ヘリ」、「ドクターカー」を三者三様に使い分ける配意を持ち、それを総合的に運用して抜かりのない、充実した地域救急医療体制をつくり上げることである。

この点で残念なのは、地方へ行けば行くほど、救急活動といえば救急車のことしか念頭にない救急関係者が多いことだ。

先号で紹介した国際医療福祉大学の河口洋行教授の研究で、三次救急医療機関への車両によるアクセスに八十分もかかることを示された某県の救急関係者が、「自分の県では救急車で間に合っているから、ヘリは必要ない」と言っているという話を聞いて、ちょっと驚いたことがある。

実のところ、ヘリコプターが正規に救急隊の標準装備に加わったのは、平成十年の消防法施行令の改正以来のことである。だから、まだ馴染みが薄いのは無理からぬことではあるが、早くすべての救急関係者が、「救急ヘリ」の活用も視野に入れた救急体制の重要性に気づき、その体制構築に思いを致してほしいと思う。

地方の実情に合わせて消防ヘリ等とも連携
さて、ここで言葉の整理をしておく。

現在、検討されている新法に言う「救急医療用ヘリ」とは要するに、現在、厚生労働省が整備を推進しているドクターヘリと同義のものと思われる。われわれの言う「救急ヘリ」は当然、ドクターヘリを中心に置く概念であるが、そのほかにも、ドクターヘリ的に運用される消防防災ヘリ等も含むものとして考えている。

今後、新法が成立すれば、それに基づき、各都道府県で新たな「救急医療用ヘリ」の導入が進むことが期待される。そういうことになれば、それが一番すっきりする。

ただ、都道府県には、すでに七十機の消防防災ヘリが配備されているのであるから、管内に複数機の消防防災ヘリを有する場合、それらを活用し、「救急医療用ヘリ」の実態機能をもつものとして運用しようとするところも出てくるであろう。

また、一機しか消防防災ヘリがなくても、警察ヘリや自衛隊ヘリなどと組み合わせて、「救急医療用ヘリ」の実態運用ができる都道府県もあるかもしれない。

今後の状況を見なければなんともいえないが、事柄は、全国一律にこうすべきだという設計図を作る必要があるものではない。各都道府県がその地方の実情に応じて決めていけばよい問題であると思われる。われわれが全国に整備すべき「救急ヘリ」の概念に含みをもたせているのも、その辺の事情を考えるからである。

いずれにせよ、新たに「救急医療用ヘリ」を導入する場合にも、消防防災ヘリとの連携関係をどのように構築するかは、よく検討し、決めておかねばならない。

その上で、隣接道府県間で協定を結び、広域にわたる「救急医療用ヘリ」の運用を確保することを通じ、広域救急医療体制を築くことが大切である。

ヘリ運航費用の負担は民間など多様な分担で
現在のドクターヘリ事業がとんと進まず、未だ全国に十一機しか整備できていない最大の理由は、その運航費用を負担しようという都道府県がなかなか出てこないことにある。

ドクターヘリは、みな民間航空会社からのリース機で、年間の運航費用は一機当たり、おおまかに言って約二億円。これを国と地方が全額公費で折半するというのが現行の仕組みであるが、この都道府県の分担する約一億円を、現下の地方財政の逼迫もあって、特に中小の県ではなかなか負担しきれないのが実情である。

事実、現行制度の下ではドクターヘリは、財政規模が大きい県から順に整備されていっており、中小の県は後回しになっている。しかし、中小の県ほど、救命救急センターまでの車両によるアクセス時間が長く、ドクターヘリの必要性が高い。したがって、現行制度でいく限り、救急医療体制の「地方格差」はますます拡大することになる。

われわれは、この深刻な事態を改善するためには、ヘリ運航費用の負担の分担を抜本的に変える必要があると考える。

まず、ヘリ運航費用の都道府県負担額が都道府県の財政規模に応じたものになるよう調整する仕組みをつくらなければならない。

その上で、運航費用を医療保険給付の対象にするほか、各種団体・個人からの寄付でも賄うことができるようにするなど、費用負担を多様に分担する仕組みをつくるべきである。

この点、新法の要綱案を見ると、「救急医療用ヘリ」を用いた救急医療の提供に要する費用を、民間等の者からの出資金を基金として設立する非営利法人に助成させる制度を創設しようとしているのは大いに評価できる。また、医療保険の適用に関しても、法律の施行後三年をめどにして検討する旨の規定を設けることとしているのはいささか問題の先送りの感もあるけれど、法律で「検討する」と明記することは大きな前進であり、今後の検討の推移に注目したい。

「救急医療用ヘリ」の運航費用を保険給付の対象とすることについては、国会の審議の過程で強い異論があったと聞く。しかし、異論を持つ方々には、ぜひ考えていただきたい点がある。

それは、「救急医療用ヘリ」を活用すれば、救急車だけで救急活を行うより、医療費負担は少なくてすむ可能性が極めて高いということである。

ドイツで民間保険会社が普及に積極的な理由
この点に関する実証的な研究はこれまで皆無に等しかったが、最近、わが法人の委託を受けて、東大医科研の山口拓洋博士(生物統計学専攻)が画期的な研究を行った。その一部は先号でも触れたが、ここで詳しく紹介しよう。

博士は、日本医大千葉北総病院が2003年1月から06年3月までの間に扱った交通事故患者のうち、救急車とドクターヘリが競合して利用される地域内で発生した事故の患者から救急車搬送44人、ドクターヘリ搬送26人を抽出し、それらの者を年齢、性別、現場血圧、現場呼吸数、外傷重症度(ISS)、現場意識障害深度(現場JCS)でそろえた上で、入院日数および入院点数の比較を行ったところ、次の表のような結果を得た。

評価項目

ドクターヘリ

救急車

入院日数

21.8日

38.5日

-16.7日

入院点数

132,595点

245,554点

-112,959点

いかがであろうか。研究結果では、ドクターヘリ被搬送者のほうが救急車被搬送者に比べて、入院日数で約17日短く、入院点数で約11万点低いことが示されているのである。

もちろん、この研究だけで確たることを言うのは尚早であり、今後、他施設で同様の研究を行って、さらに検証していく必要があるのは当然である。

しかし、ドクターヘリが患者の救命率を向上し、予後を改善する効果をあげることができるものである以上、われわれは、上記の結果の妥当性と再現性は極めて高いものであり、ドクターヘリの活用は医療費の削減効果をもつことを数値的に実証できるものと考えている。

実は、ドイツは世界最高水準の「救急ヘリ」システムを持つが、ドイツで「救急ヘリ」整備の最大のプロモーターは保険会社なのである。民間企業の保険会社がなぜ「救急ヘリ」の普及に積極的なのか。理由は簡単、保険金の支払いが少なくてすむからである。

日本においても、今後のヘリ運航費用への医療保険適用の問題の検討に際し、新規給付事由の発現にひたすら拒否反応を示すのではなく、データに基づいた、冷静で、実証的な議論が展開されることを心から期待している。(完/月刊ビジネス情報誌「エルネオス」2007年2月号掲載))

くにまつ たかじ 1937年生まれ 静岡県出身 東京大学法学部卒 61年警察庁入庁 94年警察庁長官 97年退官 99年スイス大使 2003年から現職>

HEM-Net 理事長  國松 孝次