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ドクターヘリ連携 柔軟な運用で命を救え<さきがけWeb社説>
2014.10.17

 秋田、青森、岩手の北東北3県はドクターヘリが他県まで飛べる要件を緩和し、本格的に広域連携を始めた。従来は自県ヘリが出動できない場合に限り、他県に出動を要請できた。それを自県ヘリが出動できる状況にあっても、他県ヘリが飛んだ方が治療や搬送が素早くできるときは、他県への出動要請を可能とした。救急体制が一歩進んだことになる。今後も迅速で効果的な連携を模索してほしい。

 ドクターヘリは、救急医らを乗せて現場に急行し、患者を治療しながら病院に搬送する。救急医療に必要な機器や薬剤を備えることから「空飛ぶ救命室」とも呼ばれる。本県は2012年1月に運航を開始。昨年4月に青森、岩手両県と広域連携の試験運航を始めた。

 当初は課題を洗い出し、半年ほどで本格運航に移行する予定だった。しかし、秋田、岩手両県が一層迅速な搬送を求めて出動要件の緩和を提案。1年かけて協議し、柔軟で機能的な要件にすることで合意した。

 ヘリの基地病院は3県に四つある。秋田市の秋田赤十字病院、青森市の県立中央病院、八戸市の市立市民病院、盛岡市の岩手医科大付属病院(ヘリポートは矢巾町)だ。

 要件の緩和によってどんなメリットがあるのか。例えば岩手県境に近い秋田側の山中でキノコ採りが遭難し、けが人が出たとする。秋田市からヘリで向かうより、矢巾町から飛んだ方が現場到着は早い。より迅速に対処できると秋田側の医師が判断した場合、岩手側にヘリの出動を要請できる。

 搬送に要する時間の長短は、一刻を争う救命医療では生死の分かれ目となるため、今回の要件緩和は大きな前進といえる。

 要件緩和により転院搬送の要請も可能になった。鹿角市のかづの厚生病院から岩手医大病院への転院搬送を例にすると、ヘリが秋田市から鹿角市へ飛んで盛岡市まで患者を運ぶより、矢巾町を飛び立つヘリに任せる方が早い。天候にもよるが、秋田市から鹿角市までは通常20〜30分かかるが、矢巾町からだと15〜20分で済むからだ。

 大館市の市立総合病院や扇田病院から弘前大付属病院に転院搬送する場合も、青森側から飛んでもらった方が早く、今回、要請できるようになった。

 課題もある。3県の協定では出動する県が運航経費を負担する。ヘリ1機の年間予算は各県とも約2億円。他県に出動を要請することは、費用負担を強いることになり、結果として他県への要請に二の足を踏むことになりかねない。経費の分担をどうするかの協議を今後も続けていく必要がある。

 3県では、試験運航の1年半で広域連携の出動が11件あった。今後は主に転院搬送が増えると見込まれる。医療機関が点在する北東北で、県境を越えて命を救い合う仕組みを一層確かなものにしたい。

 (2014年10月16日 さきがけon The Web)