大規模災害の被災地で救助救援に当たる多くのヘリコプターの運航管理を効率化する「災害救援航空機情報共有ネットワーク」(D−NET)の導入が進み、今年度末までに全国の消防ヘリの7割以上で利用可能になる。複数のヘリが1カ所に集中する混乱の解消が期待される。首都直下地震発生時の遂行任務数が1.8倍になるとの試算もあり、総務省消防庁と共に導入を進めるJAXA(宇宙航空研究開発機構)も「救助のチャンスを増やせる」とみている。
従来は被災地に着いたヘリは、出動要請した現地本部からの無線指令を受けながら、地図を頼りに救助救援活動を行っていた。飛行中は他に連絡手段はなく、地上の現地本部でヘリの位置をリアルタイムで把握するのは難しかった。
東日本大震災では、自衛隊、消防、警察、海上保安庁など約300機が出動したが、情報の混乱から到着しても救助者がいない「空振り」や、複数のヘリが1カ所に集中する「重複」が起きた。政府の中央防災会議は首都直下地震が起きた場合、424機を出動させることを計画しているが、混乱防止が課題となっており、JAXAと総務省消防庁がD−NETの導入を進めてきた。
D−NETを利用するヘリは、位置確認用のGPS(全地球測位システム)、衛星通信の各装置を搭載。インターネットを通じて位置情報を現地本部の管理画面に表示させる。本部で飛行方向や速度、高度なども確認可能になり、ヘリ側も他機の位置情報などを機内の端末で見ることができる。文字情報のやりとりも可能で、本部側が指令を出したり、ヘリ側が任務の進行状況を報告したりできる。
JAXAは、マグニチュード7クラスの首都直下地震が起きて9時間以内に1100件の出動要請があり、425機が出動した場合のD−NETの効果を試算した。その結果、全機がD−NETを装備している場合は1時間当たりの任務達成数が56.6回となり、無線だけの場合(31.4回)の1.8倍になった。
昨年9月の関東・東北豪雨では消防ヘリ7機中3機が装備し、本部側がD−NETの管理画面を見ながら各機を誘導した。3月末までには全国の消防ヘリ76機のうち都道府県・政令都市計41団体の56機に装備される予定。
JAXA航空技術部門防災・小型機運航技術セクション主任研究員の小林啓二さん(44)は「今後は救助が主任務でない自衛隊ヘリなども必要な場合に機内に持ち込めるよう小型化を進める。将来登場する災害対応ドローンもシステムに組み入れたい」と話す。消防ヘリを運用する消防庁広域応援室も「効果的な運用を考えたい」としている。【黒川将光】
(2016年1月12日毎日新聞)
D−NETの導入進む 全国の消防ヘリ7割以上で利用可能に<毎日新聞>
2016.01.12