認定NPO法人
救急ヘリ病院ネットワーク
HEM-Net

スペシャルコンテンツ
救われた命
特別Interview
ドクターヘリのおかげで今がある
(急性大動脈解離)
笑福亭笑瓶(しょうふくていしょうへい)さん
(タレント 取材当時59歳)

バラエティー番組などでも活躍している落語家・お笑いタレントの笑福亭笑瓶さん。ゴルフのプレー中に突然、胸の痛みに襲われ、ドクターヘリで搬送された経験があります。病名は、突然死の原因にもなる急性大動脈解離。九死に一生を得たときの様子を、HEM-Net理事の岩貞るみこが聞きました。(2017年1月発行の『HEM-Netグラフ』42号の記事を再編)
体の中でバリバリッと裂けるような鈍い音が……
岩貞
ドクターヘリで運ばれたときの様子を改めて教えていただけますか。

笑瓶
2015年12月29日、事務所の後輩の神奈月君と千葉県でゴルフをしていました。グリーンでピンをカップにさそうとしたとき、体の中でバリバリッと裂けるような鈍い音がして、今まで感じたことのない激痛が走ったんです。神奈月君に「悪いけど、救急車が必要やわ……」と伝え、痛みでまっすぐに立てなかったので支えてもらって、体をくの字にして何歩か歩いたところで倒れました。

岩貞
これは危険かもしれない、と感じられた?

笑瓶
意識を失ったらこのまま死ぬな、と直感しました。駆け寄って来る人の声やカートの音が聞こえました。「あれ、師匠じゃないの、大丈夫?」なんて。ゴルファーさんに見守られながら僕は絶命していくのかと思ったら、パシッ、「ナイスショット~」なんて聞こえてきて。声をかけてくれた人たちがプレーを再開しているんです。「そうか、みんな他人事なんだなぁ」なんて思いました(笑)。

岩貞
それはまぁ(笑)。救急車はすぐに来たのでしょうか。

笑瓶
それから間もなくして、パーォパーォパーォと聞こえてきました。神奈月君と茶屋のおばちゃんが「救急車が来ましたよ! あと少し、頑張ってください!」と言ってくれたのを覚えています。

プロフィール)
笑福亭笑瓶さん(タレント)
1956年、大阪府生まれ。1980年大阪芸術大学芸術学部文芸学科卒業後、笑福亭鶴瓶に弟子入り、一番弟子となる。よし子ちゃんのものまねなど親しみやすい芸風で全国的に人気となり、テレビやラジオのレギュラー番組で活躍中。

岩貞るみこ(モータージャーナリスト・ノンフィクション作家)
1962年、神奈川県生まれ。女性誌や一般誌、自動車専門誌、ウェブ、テレビ、ラジオ、講演会などで活動。HEM-Netの理事など多くの委員等を務める。

「上行大動脈瘤(じょうこうだいどうみゃくりゅう)」の一言でその場の 空気が変わる
笑瓶
救急隊からは名前や場所、意識があるかどうかを聞かれ、その後、「1、2の3!」という掛け声とともにストレッチャーに乗せられました。「この痛みに関して、今までに病院にかかられたことはないですか」と聞かれたので、「上行大動脈瘤!」と答えました。

岩貞
上行大動脈瘤というのは?

笑瓶
胸部の横隔膜より上にある大動脈がコブのように膨らんだ状態で、破裂したら命にかかわる怖い病気だそうです。実は以前、番組の企画でMRI検査を受けたとき、「上行大動脈瘤の恐れがあるから、年に1回は検査したほうがいい」と言われていて、それを思い出したんです。その一言で、その場の空気が変わりました。そのときドクターヘリを要請したのではないでしょうか。

ゴルフ場のフェアウェイにドクターヘリが着陸
岩貞
一刻も早く医師に診てもらわないといけない状況だったのでしょう。ドクターヘリの基地病院に確認しましたが、そのときヘリは、プレーする人を待避させてゴルフ場内の芝生の上に着陸したそうです。

笑瓶
フェアウェイに着陸したんですか。その後、フライトドクターから「痛み止めを打ちますから、安心してください」と言われ、ほっとしたのを覚えています。「ヘリの中に運びますからね」と女性の声もしました。

岩貞
きっとフライトナースですね。ヘリが到着するまで、時間は長かったですか?

笑瓶
5分ぐらいだった気がします。救急隊とやりとりしているときに、もうドクターヘリは君津中央病院からこちらに向かっていたんでしょう。病院に到着してICU(集中治療室)に運ばれて……、まるでドラマのようでした。病気は上行大動脈瘤でなくて、急性大動脈解離でした。血圧が上がっていて動脈が破裂するかもしれない状況でしたが、結局、手術はせず、2週間入院して1月14日に退院しました。

岩貞
フライトドクターの救命措置のおかげで、自然治癒で回復できたということですね。

笑瓶
救急車だったら、病院に到着するのに何十分もかかっていたでしょう。救急車の中で大動脈が破裂してしまって、手術しないといけない状況になっていたかもしれない。だから、ドクターヘリのおかげで今があると思います。

今は挑戦よりも、生きていることを楽しみたい
岩貞
ところで、以前はヘビースモーカーだったと伺いました。

笑瓶
チェーンヘビースモーカーでしたが、これを機にやめました。 体調の変化はあまり感じてはいないですね。退院して仕事を再開したときは下半身に力が入らなくて、300m歩いたらベンチに座り込まないといけない状態でしたが、今はだいぶよくなりました。7月に受けた検査では循環器内科の医師に「完治に近い」と言われました。ただ、完治といっても自然治癒だったので、安心はできないとも聞きました。あのときと同じことが突然、起こるかもしれないという恐怖感はありますね。

岩貞
重い病を乗り越えて、今、挑戦したいことや目標はありますか。

笑瓶
挑戦とかではなく、生きていることを楽しみたい。特に「五感」ですね。暑い夏の日に飲むキンキンに冷えたアイスコーヒーの美味しさや、飼い犬の毛のぬくもり、魚を焼いたときの匂い……。そんな日常が今は大きな喜びや楽しみです。死んでしまったら五感も何もない。忘れていた日常の喜びを思い出させてもらいました。

岩貞
突然の激痛が走る苦しいときに、その状況を鮮明に覚えていらして、そしてまた周りの方たちへのサービス精神もお忘れなく対応なさるなんて、すごいことだと思います。今後のご活躍をお祈りしています。