切迫早産の危険性から県のドクターヘリで岐阜市の医療機関に運ばれた飛騨市古川町の池尾さおりさん(38)は昨夏、無事に生まれた長男に「空飛(くうと)」の名前を付けた。搬送や出産に関わってくれた人たちへの感謝の思いが込められ、空飛君が大きくなったら、名前の意味を伝えたいと思っている。
看護師の池尾さんは下呂市金山町出身。夫で設備工の峰(たかし)さん(35)との結婚を機に古川町に移り住んだ。長男を授かり二十五週目の昨年五月七日、切迫早産のため高山市内の産科クリニックに入院した。
激しいおなかの痛みが襲った六月十四日。「生まれても未熟児で命の危険がある」とクリニックが判断し、ヘリを要請。市内の組合病院のヘリポートに運ばれ、初めてヘリに乗った。「無事に着くか、とにかく不安だった」
搬送先は、危険性の高い出産を受け入れている岐阜市の長良医療センター。ヘリには高山市出身の男性看護師が乗り合わせていて「大丈夫ですからね」と声を掛けてくれた。二十五分ほどで岐阜大医学部付属病院のヘリポートに到着し、センターに運ばれた。
しばらく痛みは続いたが、徐々に落ち着いた。入院中のベッドで空を眺めて浮かんだのは、道中で励ましてくれた人たち。岐阜大からセンターまで付き添ってくれた男性医師も高山市出身で「飛騨の人たちに助けられ幸せだな」と感じた。
当初は違う名前を考えていたが「この子は飛騨の地から空を飛んだんだ」と思い「空飛」の名が浮かんだ。夫も賛成してくれた。県内でドクターヘリの運用が始まったのは、三年前。「乗れたことは幸運。へき地の飛騨の人たちにとってありがたい」と感じている。
今月二十七日で一歳になる空飛君は、手を放しても十秒くらい立てるようになった。多くの人の助けで生まれ、日々成長する姿に思う。「飛躍し人の役に立てる、そんな人になってほしい」と。 (島将之)
(2014年7月15日中日新聞)