消防庁初予測 高齢者が6割
救急車の出動件数は今後20年間増え続け、搬送される人の6割をお年寄りが占める━━。総務省消防庁が始めてまとめた救急搬送の将来予測で、高齢化が出動件数を押し上げていくことが浮き彫りになった。2030年は約608万件(554万人)と試算。09年より2割近く増え、国民の20人に1人が救急車を利用すると見込む。病院に収容されるまでの時間は今まで以上に長くなる恐れがあり、救命率の低下が懸念される。(大久保泰)
今年は最高ペース
消防庁によると、09年の救急車の出動は約512万件で、搬送人員は約468万人。国民の27人に1人が救急車のお世話になった計算だ。搬送された人を年代別でみると、65歳以上が最も多く約230万人(49%)、次いで成人が約191万人(41%)、乳幼児が約24万人(5%)となっている。
消防庁は今月、将来の救急出動予測をまとめた。07~09年の3年間における5歳ごとの救急搬送率を出し、将来の人口推計にあてはめるなどして計算。5年ごとに2035年までを推計した。搬送率は、国民1人が1年間に救急車を利用する割合。
その結果、出動件数と搬送人員は2030年まで増え続け、同年には約608万件、約554万人に達する。この時、65歳以上の搬送者は約356万人で64%を占める、とみている。
消防庁によると、救急出動は1963年に始まって以来、増え続けている。病院への収容時間は年々長くなり、09年は全国平均36.1分。10年前より9分遅くなった。今年上半期(1~6月)の出動件数は前年同期比6%増。このままのペースでいくと年間では544万件となり、過去最高になる可能性が出てきた。
消防庁は、上半期に出動が増加した691の消防本部に理由を聞くと、6割余りが「高齢者の搬送の増加」を挙げた。このため将来予測を出すことにした。
「選別基準、議論を」
人口推計によると、国内人口は04年にピークを迎え、減少局面に。30年は09年より約1200万人少ない1億1500万人と推計している。一方、高齢化率は、09年の23%から30年は32%になると予想される。人口は減っても高齢化が出動件数を押し上げる格好になる。
救急車は4月現在、全国に約6千台。消防力の整備指針で、人口15万人規模の消防本部で5台が基準だ。
消防庁救急企画室の松本照仁室長は「現状のままでは出動件数は増え続け、重症患者の搬送に支障がでかねない。救急車の適正利用を呼びかけるとともに、必要な症状がどうかのトリアージ(選別)や指針の基準が現状のままでいいのか、議論が必要だ」と話す。