ドクターヘリ 運航費用に医療保険適用を
時速200キロのヘリコプターを活用して医師と看護師を救急現場に派遣し、いち早く医療を開始して救急患者の救命率の向上を図る「ドクターヘリ」。2007年の「ドクターヘリ特別措置法」の制定以来、急速に導入への機運が高まり、5月1日現在、18道府県に22機が配備されている。
ドクターヘリの運航費用は、1機当たり年間約2億円で、国と都道府県が折半で負担する。しかし、税金だけでドクターヘリの運航費用を賄うという発想は、そろそろ変える時期にきているのではないか。
ドクターヘリは、救急車を補完し、救急車では間に合わない命を救う最後の切り札だ。それは「国民みんなの公益財」である。「官」と「民」が一緒になって「公」の立場に立ち、その運営に要する費用を応分に分担しながら、社会全体で支えていく。そんな理念に基づいて制度設計されるべきものと考える。この点に関し、「ドクターヘリ特別措置法」は二つの提案をしている。
ひとつは、非営利法人(NPO)が民間から集めた基金で、ドクターヘリの運営に要する費用の一部を助成する制度の創設である。私たちのNPOは、この法の趣旨を体し、ドクターヘリに搭乗して活動する医師・看護師の研修を助成する事業を今年度から立ち上げた。
もうひとつは、ドクターヘリ運航費用への医療保険の適用であり、法律の施行後3年以内に検討して結論を出すべきことを規定している。ただ、このことについては、反対意見が多い。
ドクターヘリの運航を患者の搬送ととらえ、「診療に要する費用」に対し支払われる医療保険は、そもそも適用外であるという者もいる。しかし。これはドクターヘリの機能を理解していない議論である。ドクターヘリは、患者を搬送する以前に、医師・看護師を現場に緊急派遣し、一刻も早く医療を開始することを最大の使命とする。救急医療には必須の手段であり、「診療」以外の何ものでもない。
窮迫する医療保険財政を考えれば、新規の適用は困難との意見もある。最近私たちのNPOは統計学の専門家に依頼して、交通事故に遭い、ドクターヘリで搬送された患者にかかった入院時の医療費と、救急車で搬送された患者の医療費とを比較した。それによると、同じような症状であっても、ドクターヘリ搬送患者のほうが80万円から110万円少なくて済み、患者の予後も良好との結果が出た。要するに、ドクターヘリを活用すれば、医療費負担は軽くなるということである。
ドクターヘリ運航費用への医療保険の適用は、患者の自己負担をどうするかなど、実務上クリアしなければならない難しい問題を含んでいる。だが、社会にどうしても必要なシステムを、社会全体でどのように支えていくのか、今提唱されている。「新しい公共」の理念の実現にもつながる重要な課題として、真摯な検討を開始する必要があると思う。
NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク理事長 国松 孝次 (2010年6月2日)