認定NPO法人
救急ヘリ病院ネットワーク
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仕事人に聞く

救急医療に精通した空飛ぶ看護師
フライトナース

フライトドクターとともにドクターヘリに搭乗し、治療のサポートをしたり不安な気持ちでいっぱいの家族に寄り添ったり……。騒然としている現場を看護の力で支えるのが、フライトナースです。当然ながら、救急医療の知識と技術に長けていなければならず、また高いコミュニケーション能力と調整力も必要とされます。
VOL.3
患者や家族に寄り添うことも
フライトナースの使命
聖隷三方原病院
フライトナース
山根康裕さん

2020.4.1
フライトナースとは?
聖隷三方原病院には現在、8人のフライトナースがいますが、その半数が男性看護師です。その一人、山根康裕さんは看護師になって18年目のベテランで、1年ほど前からフライトナースの業務にも当たっています。

「看護大学の学生時代、当院の救命救急センターでアルバイトをしていたのですが、ちょうどその時にドクターヘリの運航が始まったんです。将来、看護師になったらフライトナースという選択肢もあると、興味を持ちました」

卒業後、同院に入り看護師として病棟業務を行っていた山根さん。スキルアップのため、一度、他院で働いたもののフライトナースへの思いが途切れることはなく、同院に戻って救命救急センター勤務を希望します。そこで救命救急に必要な技術を身につけ、経験を積みました。

フライトナースの仕事とは?
フライトナースを担当する日は、朝からフライトスーツを着て待機しつつ、ナースバッグの点検を行います。その後、ヘリポートにて、医師とともにドクターバッグなどの点検も行います。出動後には、現場で使った医療器具や薬剤などを補って次の出動要請に備えます。また、救命救急センターでは看護師の後方支援を行っています。

「飛行中は、消防本部指令室などから入ってくる患者さんの情報をもとにフライトドクターとどんな治療が必要になりそうか、搬送先はどこにしようかなどの打ち合わせをしています」

現場に到着したら、傷病者のもとに駆けつけ、フライトドクターが行う治療の支援をします。家族がいれば、状況を聞くのも大切な仕事の一つ。なかには動揺していたり、強い不安を感じていたりする家族もいます。寄り添い、力づけるのもフライトナースの重要な任務です。

「患者さんを医療機関まで搬送している最中は、片時も患者さんから目を離しません。というのも、ヘリの機内はエンジン音がうるさいんです。機内での通信用にヘッドホンはあるものの、高齢の方の場合、耳が悪い方も少なくありません。言葉によるコミュニケーションは難しいからこそ、表情や動きから状態の変化を察知します」

フライトナースになるには?
山根さんによると、フライトナースを目指す看護師は少なくないとのこと。フライトナースの国家資格はありませんが、特殊で専門性が高い技術や知識が必要なことから、各医療機関が独自に基準を設けているようです。フライトナースになるには、こうした基準をクリアする必要があります。

一般的には、看護師経験5年以上、かつ救急看護の経験3年以上、ACLS(二次救命処置)やJPTEC(病院前救護にかかわる人々が習得すべき知識と体得すべき技能が盛り込まれた活動指針)を習得していることなどが条件になっているようです。

「当院の場合も、救命救急センターで経験を積んだ看護師に限定されます。辞令を受けた看護師は日本航空医療学会のドクターヘリの講習に出た後、最初はベテランのフライトナースと2人体制で動きます。経験と振り返りを繰り返しながら、徐々に独り立ちを目指していきます」

フライトナースに求められる資質は?
フライトナースと一般の看護師との違いはどんなところにあるのでしょうか。最も顕著なのが、病棟や外来を担当する看護師が業務を分担して行うことが多いのに対し、フライトナースは「看護師は自分しかいない」という環境下での業務になるということ。

「救急医療について詳しいのはもちろんのこと、さまざまな病気、けがに対する幅広い知識も必要です。家族、消防、警察との連携も必要になるので、コミュニケーション能力も高いほうがいいと思います」

当然ながら、医療資源が豊富な救命救急センターのER(緊急救命室)と、救急バッグしかない現場は大きく違い、できる治療も限られます。

「あるもので対応しなければならないので、『この道具はこれにしか使えない』という考えは通用しません。柔軟な発想と応用力が求められます。こうしたことは、ヘリに搭乗するなかで覚えていきますが、それだけでなく、日ごろからイメージトレーニングをして養うことも大切だと考えています」

やりがいと心がけていることは?
心がけているのは、健康。出動要請に支障をきたさないよう、フライト担当の前日には胃に負担のかからないものを食べるなど、食事にも気を遣っています。

「つらいことは、やはり患者さんの命をつなげなかったときです。もっとやれることがあったんじゃないかと、常に考えます。反対にフライトナースになってよかったのは、現場にいる消防や警察など、他職種の存在を意識できるようになったところです。みんな初対面ですが、一つになって目の前の傷病者のために全力を尽くす。その熱量は半端じゃないです。そういう現場で自分も貢献したいと思いますね」

同院では月に1回、フライトドクター、フライトナース、運航スタッフなどによる振り返りを行っています。お互いに経験したことを共有して、質の高いドクターヘリを目指します。

「フライトナースとして活動を始めてから視野が広がった。看護師としても、一人の人間としても、大きく成長できる場ではないでしょうか」