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ドクターヘリ、都道府県の7割導入 車より27分短縮 大災害にも備え〈日本経済新聞〉
2014.03.06

 医療機器や医師らを乗せて救急現場の患者のもとに向かう「ドクターヘリ」の普及が進んできた。今年1月末時点で全国の都道府県の約7割が導入。複数機の所有や近隣県同士の共同運航で地域全域をカバーするなど新たな運用もある。2001年度の初運航から13年。救命救急で着実に実績を上げてきた一方で、“空白地帯”や救命救急医不足の解消など課題も少なくない。

 昨年9月、広島県福山市内で農作業をしていた男性(77)は、運転していたコンバインごと畑に転落し骨盤を骨折するなどの重傷を負った。救急隊員が駆けつけて容体を確認し、隣県の川崎医科大病院(岡山県倉敷市)にドクターヘリを要請した。

約20分後、要請を受けたヘリが県境を越えて到着。付近の臨時ヘリポートに着陸し、ショック状態で意識がもうろうとしている男性を収容した。医師らは気管挿管するなどの応急措置をしながら最寄りの救命救急センターに搬送、一命をとりとめた。男性は「時間のかかる救急車ではなく、ヘリで素早く治療してもらったおかげ」と感謝する。

川崎医科大病院がある岡山県を含む中国5県(鳥取、島根、広島、山口)は昨年1月、ドクターヘリの共同運航の協定を締結。平時の事故や大規模災害が発生した際、県内だけではなく、他県でも患者を搬送・治療できる連携が可能となった。連携後、同病院も広島県福山市など他県に約10回、出動している。同病院救急科の荻野隆光教授は「現場に到着し、すみやかに初期治療を始めることで救命や後遺症の軽減につながる」と話している。

 

■電話通報で判断

 佐賀県は今年1月、佐賀大病院(佐賀市)にドクターヘリを導入。119番通報で「意識がない」など特定の言葉が含まれていた場合、無条件でヘリを要請する「キーワード方式」を採用した。救急隊員が患者の容体を見てからヘリ出動の是非を判断するのではなく、電話通報だけで判断することができれば所要時間が短縮され、救命率の向上につながるからだ。

これまでに佐賀県は、隣県の福岡、長崎両県に対し、ドクターヘリの出動要請をしていた。12年度の出動件数は10年度から170件に倍増。佐賀県の担当者は「出動回数が増える中、他県のヘリを呼ぶことにためらいがあった。大規模災害が発生した時のことを考えても自県で保有すべきだと判断した」と明かす。

ドクターヘリの普及に伴い、活躍の機会は増えている。日本航空医療学会(東京)によると、12年度の出動要請件数は08年度に比べ、約3倍の2万2219件。一方で、何らかの理由で出動できなかった「出動不可」件数は12年度の4649件で、08年度(1370件)を大幅に上回った。要請を受けた際、ヘリが別の場所に出動しているなど「重複要請」が全体の約3割を占めており、ドクターヘリを配備しているからといって必ずしも出動要請に応じられない現状もある。(日本経済新聞 Web刊 2014年3月6日)