認定NPO法人
救急ヘリ病院ネットワーク
HEM-Net

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国際シンポジウムを開催
2001.12.16

HEM-Netでは去る11月14日午前9時30分から午後4時まで虎ノ門のニッショーホールで、国際シンポジウム「ヘリコプター救急のあり方」を開催、530名という大勢の方々にご参集いただきました。

ご後援とご協賛をいただいた関係省庁、団体、および企業の各位に厚く御礼申し上げます。シンポジウムの内容と成果につきましては順次、本頁に掲載してまいります。

開催概要

主 催:救急ヘリ病院ネットワーク

(HEM-Net:Emergency Medical Network of Helicopter and Hospital)

共 催:(財)セコム科学技術振興財団

日 時:平成13年11月14日(水)午前9時30分~午後4時

会 場:日本消防会館「ニッショーホール」(東京都港区虎ノ門2-9-16)

入場料:無 料

贈 呈:最新調査レポート「欧州のヘリコプター救急と日本のあり方」(A4版70頁、2001年11月刊)

言 語:日本語・英語(同時通訳つき)

 

後援と協賛

 

後援

内閣府 総務省消防庁 厚生労働省
国土交通省 警察庁 防衛庁
東京消防庁 (財)日本消防協会 全国航空消防防災協議会
全国消防長会 日本救急医学会 日本臨床救急医学会
日本航空医療学会 日本交通心理学会 日本交通政策研究会
(社)日本交通科学協議会 (財)国際交通安全学会 (財)日本航空協会

 

協賛

(財)救急振興財団 (財)国際交通安全協会
(財)日本救急医療財団 (財)三井住友海上福祉財団
(社)全日本航空事業連合会 (社)日本自動車連盟(JAF)
(社)生命保険協会 (社)日本損害保険協会
自動車保険料算定会
朝日航洋(株) アベンティスベーリングジャパン(株)
エーザイ(株) 大塚製薬(株)千葉支店
小野薬品工業(株)千葉営業所 科研製薬(株)
川崎重工業(株) キッセイ薬品工業(株)
協和発酵(株) グラクソ・スミスクライン(株)
三共(株)千葉営業所 塩野義製薬(株)
(株)ジャムコ 住友製薬(株)
第一製薬(株) ダイナボット(株)
大鵬薬品工業(株)千葉支店 武田薬品工業(株)
中外製薬(株)東京第一支店 帝人(株)
テルモ(株) (株)トーメンエアロスペース
富山化学工業(株) 鳥居薬品(株)
日研化学(株) 日本イーラリリー(株)
日本オルガノン(株) (株)日本航空新聞社
日本光電工業(株) 日本ベーリンガーインゲルハイム(株)
日本ワイスレダリー(株) 萬有製薬(株)
ファイザー製薬(株) (株)福山医科
(株)ヘリコプターリーシング・インターナショナル
三菱ウェルファーマ(株) 三菱商事(株)
持田製薬(株)千葉事業所 ユーロヘリ(株)

 

 

プログラム

開会挨拶(09:30~09:40)

魚谷 増男 (HEM-Net理事長)

基調講演

司会 : 岡田 芳明 (HEM-Net副理事長)

「日本の救急ヘリコプターの活動状況と問題点」(09:40~10:40)

小濱 啓次 川崎医科大学教授 (HEM-Net副理事長)

欧米諸国においては、30数年も前から救急ヘリが日常の救急医療システムのなかに取り入れられ、救急車と全く同様に傷病者の処置、治療に活躍している。しかし、わが国においては、平成13年4月、1年半の試行的事業を経てドクターヘリがやっと導入されたばかりである。

わが国の組織的な救急搬送は、昭和38年に消防法の一部が改正され、市町村に救急業務がかせられたことに始まる。この業務は年々整備・充実されたが、市町村単位であるが故に傷病者は救急車で搬送すると規定された。市町村からは多くの傷病者が、特に重症の傷病者が、市町村外の高度医療機関に長距離、長時間をかけて救急車で搬送されたが、市町村としてどう対応するのか具体的な検討はなされなかった。

この間、財政豊かな市は消防ヘリを、都道府県においては防災ヘリが導入されたが、これらのヘリが救急搬送システムの中に組み入れられ、傷病者の搬送に救急車と同様に常時活躍することはほとんどなかった。このことは、ヘリコプターが救急ヘリとして導入されなかったことが大きな原因であろう。

ドクターヘリ試行的事業の開始と平成13年度からの正式導入は、消防・防災ヘリの救急搬送システムへの組み入れを活性化し、全国的に消防・防災ヘリによる傷病者の搬送を増加させつつある。しかし、ドクターヘリの運用においても、消防・防災ヘリの運用においても、救急ヘリとして運用するためにはまだまだ多くの問題がある。

ドクターヘリに関しては、医師の確保、基地の整備、無線の確保、高速道路上への離着陸、消防・防災ヘリとの協力等の問題があり、消防・防災ヘリに関しては、多目的なヘリであるが故に救急ヘリ専用として救急搬送システムの中に入れ、いつでも利用できないこと、医師の搭乗システムができていないこと、司令台と直結したシステムになっていないこと等がある。今後は消防として救急専用のヘリの導入が望まれるが、どこまで可能かは現在のところ不明である。

ドクターヘリや、消防・防災ヘリ以外にも警察庁、防衛庁、海上保安庁のヘリが傷病者の救命、搬送に活躍しており、将来的には欧米諸国のように、これらの機関が協力して救急ヘリのシステムが完成することが望まれる。

「SAMU救急システムの教訓――医療主導の救急体制」(10:40~11:40)

キャサリン・ベルトラン パリ・アンリ・モンドール病院救急医学教授

フランスの「緊急医療サービス」SAMUは1986年の法律によって制定された救急医療システムである。その始まりはもっと前にさかのぼり、麻酔と集中治療の専門医師たちが病院拠点の救急業務を長年にわたって重ねてきたことで、存在価値が認められた。

人が大けがをしたような場合、麻酔専門のドクターたちは直ちに現場へ駆けつけることを考えた。これにより、病院到着後も長々と待たされ貴重な時間を無駄に過ごし、救われるべき患者の命が失われるのを防いできたのである。今日では、大けがばかりでなく、あらゆる種類の救急要請にこの方式が採用されることとなった。

プレホスピタルケアで最も多い事例は心臓発作である。そのプレホスピタルケアに、フランスでは30年前から医療がかかわってきた。医療保険の集計から見みても、SAMUによって救われた人命の価値と医療費の節約額は、全国約105か所のSAMUセンターの経費を上回って余りがある。

フランスと諸外国との大きな違いは、救急専用の電話番号「15」番が設定されていることで、警察の「17」番、消防の「18」番に並ぶ独立した番号である。この15番の電話を受けると、SAMUの出動指令センターでは担当医師が緊急事態を処理するために最も有効な手段を選定する権限を持っている。現場への派遣人員を選び、移動手段(救急車かヘリコプターか)を選び、搬送先の病院を選んで指示を出すのである。

医療チームは3人から成る。有資格の救急車ドライバー、特別訓練を受けたナース、そしてドクターである。彼らはSAMUスクール、CESU(緊急治療教育センター)、およびクレテール医学部で教育訓練を受け、正規の卒業資格を有し、現場に到着すると「その場」で患者に応急処置をほどこす。

事故の現場へ駆けつけるには、ヘリコプターが速い。アンリ・モンドール病院には医療装備をしたヘリコプターがあって、パリとその近郊1,000万人の市民の不慮の事態に対応する。このヘリコプターは民間企業からのチャーター機で、年間600~700時間の飛行をしている。

電話番号「15」のSAMUセンターの役割は、研究と災害医療にも携わっている。たとえば血栓溶解に関する研究成果はプレホスピタルケアでも有効であることが認められた。また、われわれのつくった新しい災害対応プラン、特に「レッド・プラン」は複数の死傷者が出た場合の事故に対してフランス全国で使われることになった。その対象には大規模火災、爆発、建物崩壊、交通事故、鉄道事故、航空事故、化学物質の流出、テロおよび暴動などが含まれる。

SAMUセンターの担当医師は、こうした大規模災害に際しても医療関係の調整をおこなう。すなわち日常的な緊急事態に対応する訓練と大規模な災害医療に対応する訓練とは相互に補完し合うものである。

かくてSAMUセンターの担当医師は、緊急時の医学的対応について全責任をもって決断を下し、医療上の内容についても責任を持って活動をつづけている。

(この講演は約120枚のスライドを使って1時間にわたっておこなわれた)
After many years of functioning as a hospital based centre, the value of the SAMU which means, an EMERGENCY MEDICAL SYSTEM was recognized by a law in 1986 ans called EMERGENCY MEDICAL SERVICE in France. This system was initiated by doctors specializing in Anesthesia and intensive care. Through the years and closer to present times, Anesthesiologists have demonstrated that by going on site, there was an important gain in time to prepare the injured, instead of loosing precious time waiting at the hospital to perform the same life saving procedures. Today, the organization is extended to any type of Emergency. In pre hospital care, cardiovascular emergencies are the most frequent cases. Prehospital care in France has been medically assisted for the past 30 years. Insurance studies have compared the cost of a SAMU center (there are approximateley 105 SAMU units in France) to the the cost of lives saved.

The main difference between France and other countries in emergency management is that there is a special telephone number to call : 15 which is only for medical emergencies. It is a dedicated system. In addition to this, people can telephone to 17, for the police and number 18 for the fire department. At the dispatching centre “15”, a practionner has the authority to choose the most efficient way to handle an emergency : choice of teams, choice of the mobile means: ambulances or helicopters, choice of the receiving hospital. The coordinator of the number 15 centre is a senior physician. He offers graduated responses depending of the severity of the cases. The “on the scene ” preliminary care is administrated by a medical team of 3 people : a certified ambulance driver, a specialized nurse and the doctor. These people are trained by the schools of the SAMU : the CESU and the faculty of Creteil ( “regulation diploma”)

Acces to the scene of the acident can be accelerated by the use of a helicopter. We have medically equiped helicopters in France. The one based at our hospital, Henri Mondor is available for ten million people (Paris and its suburb). This helicopter is rented from a private company and the cost of the daily use includes salary of the pilot and six to seven hundred hours of flight per year. It is used in a special way in the Paris area. which is described. Data from a national inquiry are discussed.

The role of the number 15 centre is also concerned with research and disaster medecine. The gain in time and efficency of medical pre hospital care have been identified for thrombolisis programs. New disaster awareness plans have been set up in France, in particular the red plan, which is applied to any accidents involving several casualties. This includes : major fires, explosions, collapsed buildings, traffic, railway and airline accidents, chemical spills, terrorism or riot related accidents. In these cases, the physician in charge of the 15 centre is the medical coordinator of the event to dispatch injured. Training for daily emergencies and training for disaster medecine are complementary.

Examples and statistics from various SAMU are explained.

In conclusion,the author points out the role of the medical coordinator at the centre 15. He takes ultimate responsability for all medical decisions and is responsible for the quality of the medical response.

H E M-N e t 活動報告(12:50~13:00)

益子 邦洋 (HEM-Net理事)

HEM-Netの歩み
1998.10.29.    第1回準備会合
1999. 3.26.    合意文書に調印――関東地区の10病院と6企業
1999. 8.24.    設立総会
1999. 9. 7.    経済企画庁へ設立認証申請
1999. 9.24~25  飛行搬送訓練
1999.12.21.    経済企画庁長官より法人設立の認証
2000. 6.19~22  AIRMED2000(ノルウエー)へ 研修派遣(2名)
2000. 9. 5~6   北海道調査団派遣(2名)
2001. 6. 6~14 欧州3か国(スイス、ドイツ、フランス)へ視察調査団派遣 (5名)

HEM-Netの目的
専用ヘリコプターを用いた救急医療体制を我が国に導入するための諸研究
救急医療専用ヘリコプターの導入による早期医療着手と高度救急医療機関への搬送の実現
省庁間の壁を取り払い、全国レベルで官民一体となった人命救助システムの構築
海外在留邦人に対する救急医療援助

HEM-Netの活動
ヘリコプター救急の必要性に関する啓発活動
研究活動
病院間ヘリ搬送の推進
国際患者搬送帰還事業への参画
イベント会場からのヘリ搬送事業への参画
救急ヘリ安全運航基準の策定
費用負担解決に向けての取り組み

研 究 活 動
欧米におけるヘリ救急システムの成果と課題の抽出
消防・防災ヘリ68機のうち何機を救急専用とする事が費用対効果の観点から望ましいかの研究
消防・防災ヘリ、ドクターヘリ、HEM-Netヘリの間の事業の住み分け、業務分担のあり方
警察ヘリ、海上保安庁ヘリ、自衛隊ヘリなどを救急ヘリとして活用する方策
国際線ならびに国内線の航空機内で発生した救急患者に対する医療支援のあり方
21世紀の救急搬送における消防・防災ヘリの活用方法に関する研究
交通事故時の救急ヘリによる救助の実現のための全国システムの構築に関する調査研究
交通外傷患者のヘリ搬送例分析からみた航空救急医療体制確立の必要性に関する研究
病院間ヘリ搬送の推進

患者搬送の実績
HEM-Netでは実際の救急ヘリコプターを飛ばして患者搬送をおこなっている。過去2年間の実績は8件で、いずれも会員となっている病院間の搬送であった。また国外からの帰還搬送も6件の実績がある。うち4件は中国から、1件はサイパンから、1件はチベットからである。このうち1件は専用機をチャーターしたが、残り7件は定期便を利用したものである。

なお、これら病院間搬送と国際帰還搬送の詳細は別表のとおりである。

将来の展望
HEM-Netを全国的な組織へ拡大し、全国を8ブロックに分けて、各ブロックの基幹病院にコントロール・センターないしデイスパッチ・センターを設置、消防機関との業務提携による救急現場からの患者搬送を含めて、官民一体となったヘリコプター救急搬送システムを構築する。

 

パネルディスカッション(13:00~15:30)

司会 : 辺見 弘(HEM-Net理事)

西川 渉(HEM-Net理事)

「救急ヘリの運航におけるあるべき姿について」

坂野 恵三 (総務省消防庁救急救助課長)

1 沿 革

(1) 消防・防災ヘリコプターによる救急業務について

「消防におけるヘリコプターの活用とその整備のあり方に関する答申」(平成元年3月)
「航空消防防災体制の整備の推進について」(平成5年3月)
「ヘリコプターによる救急システムの整備・充実に向けた取り組みについて」(平成8年12月)
「消防法施行令の一部を改正する政令の施行について」(平成10年3月)
(2)ヘリコプターによる救急システムの推進について(平成12年2月)

2 消防・防災ヘリコプターによる救急活動

(1)消防・防災ヘリコプターの特性を活かした活動

(2)活動件数

3 今後の課題

(1)運航不能時における応援体制

(2)指令課員のスキル向上

(3)臨時離着陸場の整備促進

(4)訓練の実施

(5)医療機関との連携

(6)救急専用ヘリコプター

大森 軍司 (東京消防庁航空隊長)
東京消防庁航空隊は、1967年全国の消防機関に先駆けて運航を開始し、35年余が経過しており、この間の総飛行時間は48,000時間余を超え、距離に換算すると地球270周以上の無事故運航を継続している。
立川市の航空隊と東京ヘリポートの江東航空センターの2施設を保有し、両施設から離陸すると15分以内で東京消防庁管内をカバーできる運用体制を確保している。

保有機体は計6機(27人乗り大型機3機と14人乗り中型機3機)で各種災害活動に対処している。平成12年中の運航実績は、1,366件であり、その内災害活動は、494件で全体の36%に当たり、その中でも317件65%が救急ヘリとしての活動である。

救急ヘリの活動現況
東京消防庁における救急ヘリ搬送は、島しょ地域からの搬送と山岳地域を含む内陸地域からの搬送の2つに大別される。

島しょ地域への出場は、東京都総務局・衛生局・東京消防庁の3者協定に基づき各機関ごとの任務分担がなされており、年間250件前後のヘリによる運航を実施している。

山岳地域及び内陸地域への出場は、年間100件前後の救急ヘリの要請があり、災害現場近くの臨着場に着陸して搬送する場合と、ホバリングして救助員がホイストにより救助する場合とがある。また、傷病者の容態によっては、医師を病院屋上からピックアップし救急現場へ搬送することも行っている。

また、新たな取り組みとして平成12年4月から、24時間運航を開始した。さらに今年4月からは、大島・利島地域の夜間洋上運航を始めとして、今後伊豆諸島地域全域の24時間即応体制の構築をめざし訓練中であり、今後、夜間における救急患者搬送要請は年間100件前後の行政需要が見込まれる。

消防ヘリを活用した救急活動の展望
1  ヘリコプターを活用しての救急事象の予測

2  臨着場の確保

3  救急ヘリ搭乗医師の確保

4  屋上ヘリポートを持つ医療機関及び地上隊との連携

5  活動ヘリと地上隊との連絡手段の確保

6  環境にやさしい運航機種の選定

7  隊員等に対する安全教育の継続

8  救急救命士に対する処置範囲の拡大

ま と め
現在消防・防災ヘリは、全国の14大都市37道県に68機が配備されたのに加えて、ヘリコプターによる傷病者搬送も関係法令等の改正により救急業務として位置付けられた。このように、救急ヘリの運航環境もハード、ソフトの両面が整備されたことから、今後益々救急ヘリの行政需要は増加するものと思われる。また、厚生労働省のドクターヘリと消防防災ヘリとが相互協力補完体制を構築することにより、質の高い救急サービスが図られ国民のニーズに適確に応えることになる。今後は、救急ヘリとして活躍中の諸外国における運航体制を参考として、日本の国情や地理的条件に適合した日本式救急ヘリ活動体制の構築が急務である。

田中 一成 (厚生労働省医政局指導課課長補佐)

平成13年度の実施見込み
以下の5県で所要経費を計上し、実施が確定

・千葉県(日本医科大学千葉北総病院)

・静岡県(聖隷三方原病院)

・愛知県(愛知医科大学附属病院)

・岡山県(川崎医科大学附属病院)

・福岡県(久留米大学病院)

平成14年度概算要求の内容
・カ所数:1年間→6カ所、3か月→4カ所

・要求額:8億2千万円

・内 訳:ドクターヘリ運航委託経費

搭乗医師・看護婦等確保経費

ドクターヘリ運航調整委員会経費

今 後 の 課 題
・都道府県における本事業の実施拡大

・受け入れ地区住民への普及啓発

・委託業者の選定

・ドクターヘリ専用無線の確保

・その他

坂本  薫(栃木県消防防災航空隊総括)
栃木県消防・防災航空隊では、2000年7月に「栃木県消防・防災ヘリコプター救急システム」の運用を開始して以来、急激な救急活動件数の増加が見られた。
栃木県消防・防災ヘリコプター「おおるり」が就航した1997年4月から2001年3月までの4年間の救急搬送症例数の推移を見ると、1997年度には3例であったものが、2001年度には約10倍の32例となり、今後も増え続けることが考えられる。ヘリコプターによる救急搬送に伴う、救急システムの有効性が確認できた。

以下、その内容について検討を行なった。

対象は4年間の救急搬送症例54例のうち、県外への長距離転院搬送、「おおるり」以外のヘリコプター救急搬送、夜間等「おおるり」運用時間外に出動要請があった場合などを除いた39例とし、システム運用開始前と運用開始後を2群に分けて比較した。

対象症例数/運用開始前23例・後16例
医師の同乗/運用開始前2例・後6例
活動種別/運用開始前は、山岳救急救助活動が80%。後は救助を伴わない救急搬送、県内転院搬送の占める割合が増加している。
119番受信時から航空隊要請までの時間/運用開始前44分・後28分
航空隊要請から航空隊出動までの時間/運用開始前19分・後14分
119番受信時から医療機関到着までの時間経過/運用開始前120分・後85分(最短で約30分)。搬送距離/運用開始前28km・後37km
以上のことから、2000年2月に旧自治省消防庁より、ヘリコプターによる救急システム推進に関する検討委員会報告書(出動基準等)に基づいて、「対象期間の搬送事例が出動基準を満たしていたか」を検証してみると、救急システム運用前と比較して救急システム運用後のヘリコプターによる救急搬送は、搬送距離の延長にも係わらず搬送時間が有意に短縮し、更に出動基準を完全に満たしていた。

しかし、消防・防災ヘリコプターは1機で多目的に使用しているため、特に緊急運航が続いた場合等、資機材の積卸しに時間を要することが、出動要請から航空隊出動までの時間短縮に支障を来していると思われる。また、耐空検査等の運休を考えると、近い将来、救急専門ヘリの導入が望まれる。

山本五十年(東海大学付属病院救命救急センター助教授)
秋枝一基、高沢研丞、八木剛史、守田誠二、元宿めぐみ、飯塚朝明、加藤洋隆、中川儀英、猪口貞樹

目  的
ドクターヘリ試行的事業は歴史的な成功をおさめ、2001年3月に終了した。今回、東海大学ドクターヘリ試行的事業の結果を解析し、その教訓を明らかにした。

方  法
検討委員会と連絡会の設置
消防本部による場外離発着場の整備(神奈川県、静岡県、山梨県に160箇所)
周辺住民への個別訪問
東海大学ヘリポートおよびヘリ内医療資器材の整備
医療スタッフの慣熟訓練
運用マニュアル作成
搬送シミュレーション
出動要請基準の策定
現場直送ドッキング方式の採用

結  果
出動件数:18カ月485件
搬送形態:直送26消防本部367件(75.7%)、転院搬送50医療施設148件(24.3%)
湘南救急活動研究協議会加盟の18消防本部からの要請による出動件数:350件(72.2%)
疾患分類:外因性疾患259例(53.4%)、疾病226例(46.6%)
重症度分類:重篤重症症例;直送268例(73.2%)、転院搬送100例(87.0%)
医療行為:318例(75.3%)
時間経過(直送):要請~指示1±1、指示~離陸4±2、離陸~現着6±2、現着~現発9±4、現発~病着6±2(M±SD、分)
時間短縮効果:救急車による予想搬送時間が概ね10分以上であれば、治療開始までの時間は短縮する
予後改善効果:予後改善症例(推計)は98例(死亡例55例減少、障害例43例減少)で予後改善率は20.3%
救急医療システムに与える効果:消防機関・二次医療機関の心理的・業務的な負担の軽減、三次対応不能地域に救命救急医療の提供
消防機関の活性化効果:通信指令室・救急隊・消防隊の一体感の醸成、現場判断と処置の質の向上
医療スタッフの認識の向上:場外離発着場の悪条件下での医療活動の習熟、救急隊員との現場連携の習熟
県民・市民、救急医療関係者の認識の向上

考   察
ドクターヘリの運用以来、中距離地域では医師による治療開始時間の短縮で救命と搬送中の悪化の防止が可能となり、長距離地域では三次対応可能地域の拡大により地域格差が是正された。東海大学ドクターヘリ試行的事業の歴史的成功は、メディカルコントロール組織である湘南救急活動研究協議会加盟の18消防本部を軸とした消防職員の自助努力と地域諸機関の地域連携によるものである。ドクターヘリの運用を成功させるためには、メディカルコントロールによる信頼関係と広域の連携体制が不可欠である。

【参考文献】東海大学ドクターヘリ試行的事業報告書

金子 正光(札幌医科大学名誉教授)

沿革と現在の体制
北海道における航空機搬送は昭和55年に自治省の補助によりBell204「はまなす1号」を防災用として北海道が導入し、丘珠空港にある北海道警察航空隊に管理運航を依頼したものである。実際には多目的であるが、救急搬送にも使用してきたが主として病院間搬送に実績を上げて来た。

平成8年には同じく自治省の補助により札幌市が消防用としてBell412「さっぽろ号」を導入し、同時に札幌市消防航空隊を丘珠空港に発足させた。一義的には火災に対応すべきものであるが、札幌市およびその近郊を含めて救急搬送、特に最近は直接現場からの搬送に大いに活躍してきている。

同じく平成8年に北海道は丘珠空港に防災航空室を設立して、全ての情報はここに入ることとし、更にBell412「はまなす2号」も導入した。

また丘珠空港には陸上自衛隊が常駐し、救急搬送に使用可能なヘリコプターおよび固定翼機――「MU-2」――を有しており、前述の道警航空隊と共に自治体のヘリを補完しあっている。

また千歳空港には航空自衛隊および海上保安庁が常駐しており、それぞれ要請により補完してきている。特に悪天候や長距離の飛行にはYS-11(海保)やMU-2(陸自)が補完している。

将来に向けて
広大な面積を有し、高い山脈が走り、離島を有し、冬季は積雪が交通を遮断する北海道において質の高い救急医療を行うためには航空機搬送は必須の手段である。地域によって医療に格差があることは基本的人権の問題でもある。

上記のヘリコプターや固定翼機は救急専用ではなく、重症患者のモニタリングに必要な機器は搭載されていない。今後これらの機器を整備する必要がある。

また札幌市以外の全道5箇所にある救命救急センターまたは近隣の空港に小型のヘリを配備して半径50キロメーターの範囲で活動することが望まれる。

また防災航空室は全道の救急医療を視野において医療設備を備えた固定翼機による搬送に専念するべきである。

本シンポジウムにおいて更に具体的に説明をしたい。

特別発言 : 小濱 啓次 (川崎医科大学教授)

HEM-Netからの提言・閉会挨拶(15:30~15:40)

吉岡 敏治 (HEM-Net理事)

本日、国際シンポジウムの開催にあたり、われわれ救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)は、わが国救急医療体制のいっそうの充実と改善を願って、ここに航空機による救急体制の確立に関し次の通り提言する。

1 ヘリコプター救急の早急なる普及促進をはかること

救急患者の救命率は初期治療の着手が早いか否かによって大きく異なる。治療の着手を早めるには、多くの先進諸国で実証されているように、ヘリコプターの活用が有効であり、これを日常的な救急体制に組み入れることによって大きな救命効果を挙げることができる。

われわれは1日も早く、ヘリコプター救急が全国に普及し、救えるはずの生命が無駄にならぬよう要望する。

2 省庁間の協調体制の促進

ヘリコプター救急の早急なる普及をはかるには、中央省庁、自治体、病院、医師会など、多数の関係機関、関係者の協調と協力が必要である。

今後早急に内閣府、総務省消防庁、厚生労働省、国土交通省、警察庁、防衛庁などが所要の調整をおこない、中・長期にわたる具体的な実施普及計画を策定するよう要望する。

3 メディカル・コントロールの確立

ヘリコプター救急は、医師がヘリコプターに搭乗し、現場に飛んで初期治療に当たることが基本原則である。しかるに現在、消防・防災ヘリコプターが救急出動をする場合は必ずしも医師が乗るとは限らず、救急救命士だけで飛ぶことが多い。この場合、さまざまな制約があって十分な初期治療ができない恐れがある。

われわれは、こうした状態をなくすために、法規を改正し、救急救命士が現場でおこなう応急処置に関して、医師による現場治療に匹敵する技能と権限を賦与するよう要望する。

4 病院ヘリポートの増設

救急ヘリコプターがその機能を十二分に発揮するには病院ヘリポートが不可欠である。ヘリコプター救急体制をいかに立派にととのえようと、搬送先の病院にヘリポートがなければヘリコプターの特性は生かされない。

全国各地の救急救命センター、災害拠点病院、あるいはその他の病院には、今後早急にヘリポートを整備するよう要望する。

さらに病院ヘリポートが整備されたあかつきには、消防・防災ヘリコプターも、可能な限り病院ヘリポートで救急待機し、医師の搭乗を原則とするよう要望する。

5 路上におけるヘリコプター救急の促進

ヘリコプター救急は、交通事故の犠牲者を減らすことが発端となってはじまった。その結果は、世界の先進事例を見ても、死亡者および障害者の大幅削減につながっている。

わが国でも、高速道路はもとより通常道路でも、電線などの障害物がない限りヘリコプターの着陸は可能である。その実行のためには、交通規制や群衆整理など警察の協力が必要である。

このため救急機関と警察とが緊密な協力体制を組み、毎年1万人に近い路上の犠牲者をヘリコプター救急によって大きく減らす体制を組み上げるよう要望する。

6 費用負担の明確化

ヘリコプター救急にかかる費用は必ずしも安くない。それゆえ患者個人の負担とすることは極めて困難である。

したがってヘリコプター救急にも、医療費が保険によってまかなわれのと同様、健康保険、労働災害保険、自動車賠償責任保険、自動車任意保険、旅行傷害保険、生命保険などが適用されるよう要望する。

7 固定翼機の活用

救急救助のために利用可能な航空機はヘリコプターに限らない。むしろ固定翼機、すなわち飛行機の方が高速で、航続距離が長く、天候に左右されることが少なく、費用も安い。飛行機は長い滑走路を必要とするため現場救急には適さないが、便利な場所に空港があれば有効な利用が可能である。

われわれは今後、我が国でも欧米諸国同様、長距離搬送には飛行機が利用されるよう要望する。

以上、われわれ救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)は、わが国救急医療体制のいっそうの充実をめざし、「命の危機管理」がさらに改善され進歩することを願って、ここに航空機による救急体制の早期確立に関する提言をおこなう。

平成13年11月14日

特定非営利活動法人
救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)
理事長 魚 谷 増 男